はじめに:深掘加工は“簡単そうで難しい”加工の代表格
切削加工において、材料を深く掘り込む「深掘加工(deep cutting、またはdeep pocket machining)」は、製品設計上避けられないケースが多々あります。例えば、金型やモールドベース、部品の冷却水路、パイプ用接続部、深穴形状などがその代表例です。
しかし、深掘加工は見た目以上に難易度が高く、加工ミスや工具破損、寸法不良の原因になりやすいことで知られています。今日は、その原因と注意点、失敗しないためのポイントを、現場視点で徹底解説していきます。
深掘加工とは?基準と代表的な加工内容
深掘加工の定義とは?
明確なJIS規格は存在しませんが、一般的に「工具径の3倍以上の深さを削る場合」を深掘加工と呼ぶことが多いです。
例:
直径10mmのエンドミルで、深さ30mm以上のポケットを加工する → 深掘加工に該当
深掘加工の例
- モールド金型のキャビティ部
- 精密部品の冷却水路や油路
- 自動車部品のインレット/アウトレット構造
- 精密機器のハウジング内面加工
これらの加工では、工具突出長が長くなる=剛性が低くなるため、非常に繊細な加工が求められます。
なぜ深く掘ると難しいのか?主な技術的課題
工具のたわみ・びびり(チャタリング)
深掘りでは、工具の突出し(オーバーハング)が長くなるため、剛性不足によるたわみが発生しやすくなります。その結果、以下のような問題が生じます。
- 加工面の粗れ(ビビりによる仕上げ面の荒れ)
- 寸法精度のばらつき
- 加工音の異常(甲高い音など)
特に小径工具×深掘りの組み合わせは、びびりのリスクが急上昇します。
工具破損・刃先摩耗
深くなるほど、工具先端への負荷が集中します。さらに、切りくずが工具周辺に滞留することで、以下のリスクが高まります。
- 熱の蓄積による焼き付き
- 再切削による刃先チッピング
- 工具の早期破損(特に超硬エンドミル)
切りくずの排出不良
深いポケット・溝では、切りくずが上に逃げにくくなるため、加工点でくずが詰まり、再切削が起きやすくなります。これにより、加工面にキズが入る、摩擦熱が上がる、工具が破損するなどの二次トラブルが発生します。
加工精度の低下
深く掘るほど、工具とワークの相対精度の管理が難しくなります。特に以下のような精度不良が起きやすくなります。
- 側壁のテーパ状(垂直度不良)
- コーナー部の逃げ(オーバーカット)
- 穴底の段差や面粗さのばらつき
深掘加工で失敗しないための具体的対策
工具選定と突出長管理
- 超硬ロングネックエンドミルや振動抑制構造付き工具(不等分割・不等リード)を選ぶ
- 工具突出しは「最短・必要最低限」に抑える
- 突出しが長くなる場合は、振れ精度が極小のホルダー(熱収縮・油圧チャック)を使用
加工条件の見直し
- 送り・切削速度を抑える(目安:通常の60~80%)
- ステップダウンを細かく設定(1刃分以下推奨)
- 複数回に分けて加工(粗取り→中仕上げ→仕上げ)
クーラントと切りくず処理の工夫
- 内径給油(クーラントスルー)付き工具で刃先まで冷却
- エアブローで切りくずを積極排出
- スパイラル加工パスで切りくず排出方向を制御
CAM(ツールパス)の最適化
- らせん状切削(ヘリカル)やトロコイド加工を活用して負荷分散
- Z軸のステップ送り制御を導入
- 同一深さの切削はワンパスではなく、サーキュラ状で加工
治具と固定の工夫
- ワークのたわみ・振動防止のため、しっかりとしたバイスや治具を使う
- 必要に応じて、多点固定・バックアップ材の活用
- 加工前の芯出し・段取り精度も重要
加工設備面から見た改善ポイント
- マシニングセンタの主軸剛性・制御精度が深掘加工の精度に大きく影響
- 主軸が弱い機械では加工音・びびりの発生が顕著になる
- 最新機種では、びびりを抑える振動検知センサー付きのAI制御や工具摩耗検出機能を搭載するモデルも存在
よくあるトラブルと対処法一覧
| トラブル内容 | 主な原因 | 推奨される対策 |
|---|---|---|
| 工具が折れる | 突出し過大、切削条件過負荷 | 条件緩和・工具剛性向上・スリムシャンク使用 |
| 面が粗くなる | びびり・摩耗・くず再切削 | 工具交換・送り速度調整・くず除去対策 |
| 寸法がずれる | 工具たわみ・熱変形 | 2段階加工、補正値入力、工具長補正活用 |
| 切りくず詰まり | ポケット深すぎ・排出不良 | スパイラルパス・エアブロー・クーラント強化 |
まとめ:深掘加工は知識と段取りの“総合戦”
深掘加工は、単なる「深く削る」作業ではありません。工具の剛性、加工条件、冷却・排出対策、段取り、機械性能など、多くの要素をトータルで管理する必要があります。
特に、高精度が求められる金型・精密部品加工では、ほんの数ミクロンの工具たわみが製品不良に直結します。だからこそ、深掘加工は「経験と知見」がものをいう加工技術なのです。

