製造現場では、「マシニングセンタによる切削加工」と「ワイヤーカット放電加工」は、ともに金属部品の高精度加工を支える主要な工法です。
しかし、加工原理・得意な形状・コスト構造・工程設計上の考え方は大きく異なります。
この違いを理解せずに加工方法を選ぶと、「コスト増」や「精度不良」「納期遅延」などを招くこともあります。
今日は、ワイヤーカット加工の特徴を深掘りしながら、マシニング加工との使い分けの基準や、実際の現場での活用事例まで詳しく解説します。
ワイヤーカット加工とは:放電による“非接触”除去加工
ワイヤーカット加工(Wire EDM:Electrical Discharge Machining)は、導電性のある金属を細いワイヤ(電極線)と加工液を介して放電させ、溶融・除去する非接触型の加工方法です。
加工機は、ワイヤを常に巻き取りながら一定の速度で供給し、NC制御により複雑な形状を高精度で切り出します。
放電によって金属表面を微細に除去するため、工具の接触による応力や変形が一切発生しないのが大きな特徴です。
主な構成要素
- 電極ワイヤ:主に黄銅または亜鉛メッキ黄銅(径0.1〜0.3mm)
- 加工液:純水(絶縁液)を使用し、放電の安定化・スラッジ除去を担う
- 電源装置:放電エネルギーを制御し、加工速度と精度を最適化
- NC制御装置:2軸(または4軸)制御で複雑形状も対応可能
加工可能な材料
- 工具鋼(SKD11・SKD61)
- 超硬合金・チタン・モリブデン・ステンレス
- 銅・アルミ・インコネルなどの導電性金属
マシニング加工との根本的な違い
マシニングは切削工具による機械的除去、ワイヤーカットは放電による熱的除去です。
この加工原理の違いが、仕上がり品質・加工速度・対応形状に大きく影響します。
| 比較項目 | マシニング加工 | ワイヤーカット加工 |
|---|---|---|
| 加工原理 | 切削工具が接触して削る | 放電で金属を溶かし除去 |
| 工具 | エンドミル、ドリルなど | 電極ワイヤ |
| 加工対象 | 金属・樹脂など幅広い | 導電性金属のみ |
| 寸法精度 | ±0.01mm前後 | ±0.002mm程度 |
| 面粗度 | Ra0.8〜1.6μm程度 | Ra0.2〜0.4μm(仕上げ条件) |
| 加工速度 | 速い(量産向き) | 遅い(精密加工向き) |
| 応力・変形 | 切削抵抗による変形あり | 非接触で変形ほぼなし |
| 内角R | 工具径に依存 | 極小R(ワイヤ径の半分) |
| コスト構造 | 時間単価安め、工具消耗あり | 時間単価高め、線材消耗あり |
ワイヤーカットが選ばれる3つの理由
高硬度材・焼入れ材を直接加工できる
マシニングでは焼入れ鋼を切削する場合、工具摩耗やビビリが問題となり、加工コストが上昇します。
一方、ワイヤーカットは放電除去のため、焼入れ後でも直接加工が可能。
金型や治具の「仕上げ工程」や「入れ子部品加工」などに最適です。
極小コーナーRや精密輪郭の実現
マシニングでは工具径によってRが残りますが、ワイヤーカットではワイヤ径が0.1mm以下のため、
鋭角なコーナーや細いスリット、薄肉構造なども高精度に加工可能です。
加工応力ゼロによる変形レス
切削加工では工具による力が部品に加わり、特に薄板や細長い形状では反りや変形が起こることがあります。
ワイヤーカットは非接触で除去するため、加工変形をほぼ完全に防止できます。
ワイヤーカットが活躍する代表的な用途
| 分野 | 具体的な部品例 | 加工の狙い |
|---|---|---|
| 金型製作 | パンチ・ダイ・入れ子・キャビティ | 嵌合精度の確保、焼入れ後仕上げ |
| 精密治具 | シャーシ、スリットゲージ、位置決めプレート | 平行度・直角度の高精度化 |
| 電子部品 | コネクタ部品、微細電極 | 微細スリットや薄板加工 |
| 航空・医療 | チタン・難削材部品 | 変形を防ぎつつ高精度化 |
| 試作開発 | 形状検証モデル、精密試作品 | 工具レスで短納期対応可能 |
マシニングとの使い分けポイント
実際の製造現場では、マシニングとワイヤーカットを組み合わせて使うことが一般的です。
使い分けの実例
| 工程 | 推奨加工方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 荒加工・形状出し | マシニング | 高速・低コスト |
| 仕上げ・嵌合部 | ワイヤーカット | 高精度・変形レス |
| 曲面・3D形状 | マシニング | 立体形状に対応 |
| 平面輪郭・貫通形状 | ワイヤーカット | 切断面が綺麗で後工程不要 |
このように、「マシニングで形を作り、ワイヤーカットで精度を仕上げる」という工程設計が理想です。
これにより、加工時間と品質のバランスを最適化できます。
ワイヤーカットのデメリットと注意点
ワイヤーカットは万能ではなく、以下の点に注意が必要です。
- 導電性のない材料は加工不可(樹脂・セラミックなど)
- 加工速度が遅い(マシニングの数倍の時間を要する場合も)
- 加工コストが高め(ワイヤ線材やフィルターなどの消耗品費)
- 非接触ゆえにバリは出ないが、放電変質層(約2〜5μm)が残る
- 形状制約あり(ワイヤが貫通していない形状は加工できない)
設計段階で「貫通穴構造」や「導電性材料の選定」を考慮することで、無駄な工程やコストを防ぐことができます。
まとめ:精度を追求するならワイヤーカットが最適
マシニング加工がスピードと自由形状を得意とするのに対し、
ワイヤーカット加工は寸法精度・変形防止・硬質材対応で優位に立ちます。
両者を適材適所で使い分けることで、
- 加工精度の安定化
- 工程短縮
- 再現性の向上
が実現します。
特に金型部品や精密機械部品では、マシニング+ワイヤーカットのハイブリッド工程が品質の決め手となっています。



