ステンレスは耐食性・強度・耐熱性に優れ、多くの産業で使用されています。ただし、硬度が高く加工が難しいため、適切な技術や工具が求められます。ここでは、ステンレス加工の種類やポイントを詳しく解説します。
1. ステンレスの特徴
1-1. 耐食性
ステンレスにはクロム(Cr)が含まれ、表面に「不動態皮膜」と呼ばれる酸化被膜を形成します。これにより、錆びにくい特性を持ちます。ただし、塩分や酸性環境では腐食しやすくなるため、適切なグレードを選択することが重要です。
1-2. 強度と耐久性
一般的な炭素鋼と比べて引張強度が高く、摩耗や衝撃に強いため、長期間の使用に適しています。
1-3. 熱に強い
ステンレスは高温でも変形しにくく、耐熱性に優れています。特に耐熱ステンレス(SUS310Sなど)は、1000℃以上の環境でも使用可能です。
1-4. 加工の難しさ
ステンレスは加工硬化しやすく、熱伝導率が低いため、切削や溶接時に適切な対策を取らないと工具の摩耗やワークの変形が起こります。
加工硬化
ステンレスには加工硬化という性質があり、力を加えると硬くなります。加工硬化は、ステンレスの加工精度や工具の摩耗に悪影響を与える可能性があります。
【加工硬化の原因】
- ステンレスの結晶構造が変化し、内部に転位という結晶のずれが蓄積される
- 加工によって材料内部の原子配列が乱れ、原子同士の結合が強まる
【加工硬化の影響】
- 被削性が低下する
- 工具の摩耗を早める
- 製品のスムーズさや表面粗さに悪影響を及ぼす
- 溶着が起きやすい性質になる
- 切削抵抗が大きくなる
- 熱伝導率が低い特徴があり、刃物の寿命も短くなる
【加工硬化の対策】
- 加工硬化を起こした表面よりも深い部分を削る
- 固くなった部分をこすらないように調整する
- 最適な刃物や加工条件を選ぶ
- 刃物が当たる箇所を冷やせるように、クーラントの出る位置を変える
- 高品質かつ効率的な加工を行うには、ステンレス加工に特化したステンレス快削鋼などを使用する
2. ステンレス加工の種類
2-1. 切断加工
ステンレスの切断には以下の方法があります。
- レーザー切断(高精度・複雑な形状向け・薄板から中厚板)
- プラズマ切断(厚板向け・コストパフォーマンスが高い)
- ウォータージェット切断(熱影響を受けにくい・材料に優しい)
- シャーリング(直線切断向け・比較的簡単な加工)
2-2. 曲げ加工
- プレスブレーキ(V字型の金型を使い、角度をつけて曲げる)
- ロール加工(円筒形に成形する)
- スピニング加工(回転させながら塑性変形を行い、円形の部品を作る)
2-3. 切削加工(旋盤・フライス・ボーリング・タッピング)
2-3-1. 切削加工の種類
- 旋盤加工(円筒形の部品を削る)
- フライス加工(平面や溝を削る)
- ボーリング加工(穴を拡大・仕上げる)
- タッピング加工(ねじ山を形成する)
2-3-2. 切削加工のポイント
- 低速回転で加工する
- 高速回転では熱が発生しやすく、工具が摩耗しやすいため、適切な切削速度を選択。
- 切削液を使用する
- ステンレスは熱伝導率が低いため、切削液を使用して熱を抑えることが重要。
- 適切な工具を使用する
- HSS(高速度鋼)よりも、TiNコーティングや超硬工具の方が耐摩耗性に優れる。
- 工具の刃先を鋭利にする
- ステンレスは加工硬化しやすいため、切れ味の良い刃先を使用することで効率的に加工できる。
- 送り速度を適切に調整する
- 遅すぎると加工硬化が進み、速すぎると工具が摩耗しやすい。
2-4. 溶接加工
ステンレスの溶接方法には以下のものがあります。
- TIG溶接(精密で美しい仕上がり・手作業向き)
- MIG溶接(スピードが速く、大量生産向け)
- スポット溶接(板金の接合に適している)
- レーザー溶接(高精度・歪みが少ない)
2-5. 研磨加工
- バフ研磨(鏡面仕上げに最適)
- ヘアライン仕上げ(細かい線模様の美しい仕上がり)
- ビーズブラスト(マットな質感を作る)
- 電解研磨(化学的に表面を滑らかにする)
3. ステンレス加工の注意点
3-1. 熱影響
ステンレスは加工時に熱が発生しやすく、歪みや硬化が起こる可能性があります。適切な冷却を行うことが重要です。
3-2. 加工硬化の対策
加工硬化が起こると、次の加工が難しくなります。そのため、低速・高送りの条件で加工し、加工熱を最小限に抑えることが重要です。
3-3. 工具選び
適切な工具を選ぶことで、加工性が大きく変わります。
- 超硬合金工具(タングステンカーバイド) → 高精度・高耐摩耗性
- コーティング工具(TiN, TiAlN) → 摩擦低減・耐熱性向上
- セラミック工具 → 高速加工が可能だが、衝撃に弱い
3-4. 表面処理
加工後に酸洗いやパッシベーション処理を施すことで、耐食性をさらに向上させることができます。
まとめ
ステンレスは耐食性や強度に優れていますが、加工硬化しやすく、熱伝導率が低いため、適切な方法を選ぶことが重要です。特に切削加工では、切削速度や工具選び、冷却の工夫が必要です。適切な技術と設備を活用することで、高品質なステンレス製品を製作できます。