トロコイド加工の基本再確認
トロコイド加工は、エンドミルの中心が「円弧+直線」の軌跡を描きながら被削材を削る方法です。
従来の荒取り加工や等高線加工と比べて、切削負荷を一定に保ち、工具寿命や加工精度を大幅に向上させることができます。
- Trochoid(トロコイド):円運動する点が描く軌跡のこと
- 特徴:切削負荷分散・高能率加工・難削材でも安定
トロコイド加工が生まれた背景
従来加工では、刃先に一時的に大きな負荷が集中しやすく、以下の問題がありました:
- 工具摩耗・刃欠けが発生しやすい
- 深穴や硬質材加工でのビビリ
- 高精度加工での寸法変動
トロコイド加工はこれを解決するために、工具が常に軽い切削負荷で回転する軌跡を設計することで、加工精度と工具寿命を両立しました。
トロコイド加工の理論
切削負荷の均一化
工具は常に部分的にしか材料に接触していないため、切削抵抗が均等化されます。
これにより、刃欠け・振動・発熱を最小化できます。
送り・切り込みの分離
- 側面切り込み(ae):浅く設定
- 軸方向切り込み(ap):深く設定
→ 高速切削を維持しつつ、工具全長を有効活用できる。
CAMプログラムでの軌跡生成
CAMソフト(Mastercam、Fusion360、HyperMILLなど)では、トロコイド専用の荒取りパスを自動生成可能。
- 切削負荷を一定化
- 加速度制御や方向転換を最適化
→ NCプログラムの精度向上
トロコイド加工の応用例
高硬度材の荒取り
| 材料 | 効果 |
|---|---|
| ステンレス(SUS304) | 工具寿命2倍、ビビリ防止 |
| チタン合金(Ti-6Al-4V) | 熱負荷抑制、刃欠け激減 |
| 焼入れ鋼(HRC50) | 加工時間30%短縮 |
| アルミ材(A5052) | 高速送り可能、切りくず詰まり少 |
3D形状の加工
- 航空部品の翼型加工
- 金型の複雑形状仕上げ
- 自動車部品の凹凸面荒取り
トロコイド加工は、従来では難しかった深いポケットや複雑な3D形状も安定して加工可能です。
適した工具・刃物条件
| 条件 | 推奨 |
|---|---|
| 材質 | 超硬・コーティング超硬(TiAlN, AlCrN) |
| 刃数 | 2〜3枚刃(荒取り)、4枚刃以上(仕上げ) |
| 刃先形状 | スクエアエンド、ロングネックは避ける |
| 冷却 | ミスト・油性切削油で切りくず除去 |
コツ
- 小径エンドミルでも負荷分散可能
- 深ポケット加工時の熱集中を防止
- トロコイド+ボールエンドミルの組み合わせで荒取り→仕上げが効率的
加工パラメータの最適化例
| 項目 | 一般的目安 |
|---|---|
| 切削速度 (Vc) | 80〜200 m/min(材質依存) |
| 送り量 (fz) | 0.05〜0.2 mm/tooth |
| 側面切り込み (ae) | 工具径の10〜20% |
| 軸方向切り込み (ap) | 工具径の1〜1.5倍 |
| 送り方向 | 上向き(アップカット)推奨 |
ポイント:
- aeは浅く、apは深く設定
- 刃先全長を効率的に利用し、工具寿命を延ばす
トロコイド加工のメリットまとめ
- 切削負荷が一定で刃欠け防止
- 工具寿命が延び、摩耗均一
- 高速・高送りが可能で生産性向上
- 切りくず排出性が良く、加工面安定
- 難削材でも安定加工可能
デメリット・注意点
- NCプログラムは複雑
- マシニングの高応答制御が必要
- 浅切り込みで加工時間がやや長くなる場合あり
- CAMソフトで最適軌跡生成を前提に設計する必要
従来加工との比較
| 項目 | 従来側面加工 | トロコイド加工 |
|---|---|---|
| 切削負荷 | 変動大 | 常に一定 |
| 工具寿命 | 短い | 長い |
| 加工時間 | 短いがリスク大 | やや長いが安定 |
| チップ排出 | 悪い | 良好 |
| 熱発生 | 多い | 少ない |
トロコイド加工NCプログラム例
%
O1001 (トロコイド加工サンプル)
(T1 : 直径6mmエンドミル)
(G17 XY平面, G90 絶対座標)
G21 (mm単位)
G54 (ワーク座標系選択)
S8000 M03 (主軸回転 8000rpm, 正転)
G00 X0 Y0 Z5 (安全高さに移動)
Z0.5 (ワーク表面0.5mm上)
G01 Z-2 F200 (切り込み深さ2mm, 送り200mm/min)
(トロコイド加工開始)
100 = 2 (ポケット幅)
101 = 3 (ポケット長)
102 = 6 (エンドミル径)
103 = 2 (切込み深さ)
104 = 200 (送り速度)
110 = 0 (初期Xオフセット)
111 = 0 (初期Yオフセット)
120 = 0 (角度)
(ループでトロコイドパス)
G01 X[#110 + #102/2] Y[#111] F#104
G02 X[#110 + #102/2] Y[#111 + #102] I0 J#102/2 F#104
G01 X[#110 + #101 – #102/2] Y[#111 + #102] F#104
G02 X[#110 + #101 – #102/2] Y[#111] I0 J-#102/2 F#104
G01 X[#110 + #102/2] Y[#111] F#104
G00 Z5 (安全高さに戻る)
M05 (主軸停止)
M30
%
プログラムのポイント
G02/G03:円弧補間でトロコイド軌跡を描く。- 切込み深さやポケットサイズをパラメータ化(
#100,#101など)すると変更が容易。 - 直線ポケットの場合、円弧と直線を組み合わせて段階的に削る。
まとめ
トロコイド加工は、高能率・高精度・工具寿命延長を同時に実現する加工法です。
特に難削材や複雑形状加工では、従来法より安定性・生産性ともに大幅に向上します。
- 荒取りではトロコイド加工
- 仕上げではボールエンドミルやコーナーRエンドミル
の組み合わせが、現場では効率的です。



