製造業の現場では、「精度」「加工対象材」「形状の複雑さ」など多様なニーズに応じて、さまざまな加工技術が使い分けられています。中でも放電加工(EDM)は、切削加工では困難な微細・高硬度材の加工に適した革新的技術として、金型製作・精密部品加工・航空機部品など多分野で活用されています。
今日は、「放電加工とは何か?」からスタートし、切削加工との根本的な違いや、両者の長所・短所、そして実際の使い分けのポイントまで、現場目線で詳しく解説します。
放電加工とは?仕組みと種類
▼ 原理
放電加工は、電極とワーク(被加工物)の間に火花放電(スパーク)を発生させて、局所的に高温(約8000~12000℃)を生じさせ、その熱でワークの表面を溶融・蒸発させる加工法です。
この現象は絶縁液中(多くは油や水系)で起こり、加工点は連続的に再放電されて形状が形成されていきます。
▼ 主な種類
種類 | 概要 | 主な用途 |
---|---|---|
型彫り放電加工(Die Sinker EDM) | 専用の電極形状を使って、材料に形状を彫り込む | 金型の空洞、深溝、文字・ロゴ加工など |
ワイヤーカット放電加工(Wire EDM) | 直径0.1〜0.3mmほどの真鍮線を移動させ、材料を輪郭切断する | 精密部品の輪郭切削、金型の入れ子部品など |
微細放電加工(Micro EDM) | 数十μm〜100μmレベルの針状電極で、微細穴やピンを加工 | 医療部品・電子機器・時計部品など |
切削加工との原理的な違い
比較項目 | 放電加工 | 切削加工 |
---|---|---|
加工方式 | 熱による材料除去(非接触) | 機械的に材料を削る(接触) |
工具と材料の関係 | 工具が材料に接触しない | 工具が材料に常時接触 |
対象材質 | 導電性があればOK(硬さは問わない) | 一般的に比較的軟らかい金属が対象 |
加工応力 | ほぼゼロ(熱応力のみ) | 工具による切削応力がかかる |
工具摩耗 | 電極の消耗 | 刃物の摩耗と再研磨が必要 |
放電加工のメリット
① 高硬度材料でも加工可能
熱で除去するため、焼入れ鋼、超硬合金、インコネル、チタン合金などの難削材でも対応可能。切削工具が摩耗するような材料でも、放電加工なら問題ありません。
② 非接触による高い加工安定性
工具と材料が接触しないため、加工中のビビリ、切削負荷、変形などが発生しにくく、非常に安定した精度が出せます。
③ 微細・複雑形状の加工に最適
ワイヤー径や電極形状を変えることで、極小Rや鋭角、微細溝、深い穴なども加工可能。たとえば、R0.1以下のコーナーや極小ネジ穴も加工可能です。
④ バリがほとんど出ない
機械的に切るわけではないので、切削バリが発生しにくく、後工程のバリ取りも最小限で済みます。
⑤ 熱による変形が少ない
放電はごく局所的で瞬間的な加熱のため、母材全体への熱影響が少なく、歪みや変質が起きにくい。
放電加工のデメリット
① 加工速度が遅い
放電による材料除去は数mm³/分レベルと、切削よりはるかに遅い。量産や粗加工には向いていません。
② 導電性が必須
樹脂やセラミックなど、電気を通さない素材には非対応。また表面酸化膜が厚い素材も加工しにくいケースがあります。
③ 電極の製作コストが高い(型彫り)
電極はワーク形状の「型」となるため、加工前に精密な電極設計・製作が必要で、金型業では重要なコスト要素となります。
④ 白層(熱影響層)が形成される
加工後の表面には、高温で再凝固した「白層(リキャスト層)」が数μm残るため、用途によっては研磨やバフ仕上げなどが必要です。
⑤ 機械の維持管理が必要
放電液の管理、ワイヤー電極の消耗管理、電極の摩耗補正など、加工条件のノウハウと装置メンテナンスが不可欠です。
切削加工と放電加工の使い分け指針
加工対象 | 最適な加工法 | 補足 |
---|---|---|
高硬度材(焼入れ鋼・超硬など) | 放電加工 | 工具摩耗を避けられる |
大量生産向けの単純形状部品 | 切削加工 | 加工スピードが優位 |
複雑形状・鋭角コーナー | 放電加工 | 微細形状に強い |
樹脂や非導電性素材 | 切削加工 | 放電加工不可 |
高精度を要する試作や治具 | 放電加工 | 歪みが少ない、形状精度に強い |
放電加工は“高付加価値加工”にこそ威力を発揮!
放電加工は決して“万能”ではありませんが、他の加工法では実現できない高精度・高難度加工にこそ威力を発揮します。
たとえば
- 金型のコーナーや深溝
- 航空機部品の精密穴
- 医療機器の微細構造
- 時計部品の薄肉加工
など、技術的な“壁”を越える加工法として、切削加工と併用されるケースが増えています。
まとめ
放電加工は、導電性がある材料に対して、接触なしで高精度な形状を作り出すことができる技術であり、切削加工とはまったく異なるアプローチです。
切削加工では対応が難しいような材料・形状・精度を要求される場面では、放電加工が最適な選択肢となります。
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当社では、高精度ワイヤーカット・型彫り放電加工設備を完備し、複雑な形状や難削材にも対応可能です。試作、量産、小ロット、金型修理など、幅広く承っております。
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