金属加工にはさまざまな方法がありますが、その中でも「塑性加工」と「切削加工」は最も広く活用されている基本的な加工法です。加工対象の材質、製品の形状、ロット数、精度、コストなど、さまざまな要素を考慮して、最適な加工方法を選定することが求められます。
今日は、塑性加工のメリット・デメリットを中心に、切削加工との違いやそれぞれの適用場面についても詳しく解説していきます。
1. 塑性加工とは?
塑性加工(Plastic Forming)は、金属や樹脂などの材料に外力を加えて、その材料を塑性変形させ、目的の形状に成形する加工方法です。ポイントは、「材料を削らずに変形させて形状を得る」という点にあります。変形させた後も、材料は破断せず、連続した構造体として保持されます。
主な塑性加工の種類と特徴
加工法 | 概要 | 主な用途 |
---|---|---|
鍛造(Forging) | 金属を叩いて圧縮・成形する | 自動車部品、航空機部品、工具類 |
圧延(Rolling) | ロール間に材料を通して薄く延ばす | 鋼板、アルミ板など |
押出し(Extrusion) | 金型を通して材料を押し出す | パイプ、アルミサッシ、銅線など |
引抜き(Drawing) | 線材や管材を引っ張って細くする | ワイヤー、チューブなど |
深絞り(Deep Drawing) | 薄板を引き延ばして容器形状に | 缶、自動車のボディ部品など |
2. 塑性加工のメリット
◎ 材料ロスが非常に少ない
塑性加工では、材料を削るのではなく変形させて形状を得るため、切りくずが発生しません。これにより、歩留まり(材料利用率)が非常に高く、材料コストの削減に貢献します。
◎ 高い機械的強度を得られる
塑性変形によって、金属組織が繊維状に流れる(メタルフロー)ため、素材内部の構造が密になり、強度・耐久性が向上します。これは特に鍛造加工に顕著で、自動車のクランクシャフトや航空機部品など、強度が求められる部品に最適です。
◎ 量産に適している
金型を用いる加工方法であるため、同一形状を高い再現性で大量に製造できるのが大きな利点です。高速プレス機などを用いれば、1分間に数十個以上の部品を生産することも可能です。
◎ 表面品質が良好
塑性加工では、加工表面が連続して形成されるため、仕上げ面が滑らかで応力集中も少ない傾向があります。これにより、表面処理や研磨工程を削減できる場合もあります。
3. 塑性加工のデメリット
✖ 初期費用が高額(特に金型)
塑性加工は、専用の金型や治具が必要となるため、初期投資が大きくなります。特に鍛造や押出しでは、金型の設計・製造コストが全体のコストに大きく影響します。試作や小ロットには不向きです。
✖ 寸法精度に制限がある
塑性加工は素材の変形を利用するため、反発(スプリングバック)や変形時の戻りなどが発生しやすく、寸法精度の管理が難しいケースがあります。高精度が求められる製品では、仕上げ加工として切削が必要になる場合もあります。
✖ 複雑な内部形状には不向き
内部に空洞を持つ部品や、極めて複雑な三次元形状は、塑性加工単独では実現困難です。このような形状には、切削加工や鋳造とのハイブリッド加工が採用されることが一般的です。
4. 切削加工とは?塑性加工との比較
切削加工(Machining)は、ドリルやバイトなどの工具を使って材料を削り取り、目的の形状を作る加工法です。マシニングセンタ、旋盤、フライス盤などを使用します。
⬛ 主な切削加工の特徴
- 高精度加工が可能(±0.01mm以下の公差も対応)
- 複雑形状・内部構造の再現性が高い
- 金型不要、小ロット生産に対応しやすい
- 加工スピードは比較的遅い
- 材料ロスが多く、切りくず処理が必要
5. 加工法の違いを徹底比較(表で整理)
項目 | 塑性加工 | 切削加工 |
---|---|---|
加工原理 | 変形させる | 削り取る |
材料ロス | 少ない | 多い(切りくず発生) |
強度 | 向上しやすい(鍛流線による) | 弱くなる場合も(加工硬化や応力集中) |
精度 | やや低い(補正必要) | 高精度に対応 |
金型コスト | 高い | 不要または少ない |
ロット対応 | 大量生産向き | 小ロット・多品種向き |
複雑形状 | 不得意 | 得意 |
加工速度 | 非常に速い(プレスなど) | 遅め(1個ずつ加工) |
6. 加工法の選定ポイント|用途別おすすめ
▶ 小ロット試作 → 切削加工が有利
金型不要で設計変更も容易なため、試作や少量生産に適しています。
▶ 大量生産でコスト重視 → 塑性加工が有利
1個あたりの単価を抑えるには、塑性加工が圧倒的に有利。自動車部品や家電部品などに最適。
▶ 高強度部品を作りたい → 鍛造などの塑性加工
クランクシャフト、ナックル、ギアなどには鍛造が最適。
▶ 精密部品や複雑形状 → マシニング加工などの切削
金型では再現困難な細かい加工や、内部構造を持つ部品に対応可能。
まとめ|塑性加工と切削加工の正しい使い分けで生産性を最大化!
塑性加工は、「高強度・低材料ロス・量産向き」という強みを持つ一方で、「金型コストが高く、複雑形状には不向き」という課題もあります。切削加工はその逆で、「高精度・複雑形状対応・柔軟性」に優れる反面、「材料ロス・加工時間」がデメリットになり得ます。
両者をうまく使い分けることで、製品ごとの最適な品質・コスト・納期を実現することが可能です。近年では、ハイブリッド加工(例:鍛造+マシニング仕上げ)も一般化しており、設計段階での加工法の選定がますます重要になっています。