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【初心者向け】合金鋼とは何か?種類・性質・加工上のポイントをまとめて解説

金属材料の基礎知識

金属加工・機械設計の現場では欠かせない合金鋼(ごうきんこう)
しかし「炭素鋼と何が違う?」「どんな種類があるの?」と疑問を持つ方も多い素材です。
今日は、素材選定の初心者でも理解できるように、合金鋼の基礎から用途、加工の注意点まで分かりやすく解説します。

合金鋼とは?

合金鋼とは、鉄を主成分とし、炭素以外の特定の元素(クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウムなど)を添加して、その特性を向上させた鋼のことです。添加元素によって強度、靱性、耐食性、耐熱性などを向上させられます。

─ 炭素鋼との違い

材料主な構成長所弱点
炭素鋼Fe + C価格が安く汎用性が高い性能向上に限界
合金鋼Fe + C + 合金元素用途に応じて性能を最適化可能コスト高・加工難度UPの傾向

性能重視の工業製品では合金鋼が採用される場面が多いのが特徴です。

合金鋼の種類|用途別に代表材を紹介

分類代表的な鋼材特徴主な用途
構造用合金鋼SNCM、SCM高強度・耐疲労性ギア、シャフト、自動車部品
ばね鋼SUP 系弾性に優れる各種スプリング
工具鋼SKD、SKH 系耐摩耗・高硬度金型、ドリル、切削工具
耐食合金鋼(ステンレス)SUS 系高耐食性食品機器、医療、建築
耐熱鋼SUH 系高温特性◎ガスタービン、排気系

素材名からでも大まかな特性・用途が推定できるようになります。

構造用合金鋼

構造用合金鋼の主な特徴

特性内容
高強度引張強さ・降伏強さが高い
高靱性衝撃や疲労に強い
熱処理効果が高い焼入れ・焼戻しで性能オン/オフが可能
精度維持性高荷重環境で変形しにくい

耐摩耗性と疲労寿命が長いため、長期間・過酷な環境に最適です。

代表的な構造用合金鋼(材質例)

JIS記号特性主な用途
SCM(クロムモリブデン鋼)
SCM435 / SCM440 など
強度・耐摩耗性に優れるクランクシャフト、ギア、ボルト
SNCM(Ni-Cr-Mo 鋼)
SNCM439 / SNCM630
靱性・疲労強度が高いベアリング、航空部品
SMn(Mn鋼)コスト安、焼入れ性〇自動車部品、小物部品

➡ SCM が最も一般的で、自動車分野で多く採用されています。

加工・熱処理での注意点

項目注意点対策
熱処理後の変形応力により歪みが出やすい荒加工 → 熱処理 → 仕上げ加工
切削性高硬度材では工具摩耗大超硬・コーティング工具の使用
溶接性割れが生じる場合あり予熱・後熱で応力除去

▶ 加工計画の段階で熱処理工程を組み込むことが必須です。

バネ鋼

バネ鋼とは、
曲げたり引っ張ったりしても元の形にしっかり戻ること(弾性)を重視して設計された鋼材です。

自動車のサスペンションばねや工業用スプリングなど、
「たわむ → 戻る」を繰り返す部品に欠かせない材料です。

バネ鋼の特徴(なぜ弾む?)

特性内容
高弾性曲げても変形が戻りやすい
高疲労強度くり返しの変形に強い
高靱性衝撃力にも強い
硬さ調整がしやすい熱処理で性能をコントロール

▶ 折れず・疲れず・しなやかに動くことが求められます。

そのため、炭素鋼にSi(ケイ素)やCr(クロム)などを加え、
弾性や疲労強度を大きく向上させています。

バネ鋼の種類(JIS記号)

バネ鋼は主に下記に分類されます。

分類JIS記号特徴主な用途
熱間成形用バネ鋼SUP 系(SUP6、SUP9A、SUP10など)高強度で大形部品に対応自動車の板ばね・コイルばね
冷間成形用バネ鋼線SW 系(SWP、SWOSC-Vなど)小物バネに適正工業用コイルばね・クリップ
ステンレスバネ鋼SUS304-WPBなど耐食性◎医療・食品機器、屋外製品
特殊バネ鋼Ni-Cr鋼、Si-Mn鋼など高耐疲労・耐熱性など航空・高応力部品

とくにSUP10(Si-Mn鋼)はサスペンション用途で有名。

バネ鋼の加工・熱処理の注意点

注意ポイント理由具体的対策
応力集中に弱い疲労破壊の原因に角部にR付与、ショットピーニング
熱処理変形残留応力発生低温焼戻し・応力除去処理
割れやすい素材もあり高硬度化しがち成形 → 熱処理の順番を徹底

 疲労破壊を防ぐ設計・加工が命

工具鋼

工具鋼(こうぐこう)とは、
物を切る・打つ・成形する工具や金型に使用される鋼材のことです。

切削工具・金型は高負荷・高摩耗環境で使われるため、
工具鋼には 高硬度・高強度・耐摩耗性・耐熱性 が求められます。

工具鋼の特徴(なぜ強い?)

特性説明
高硬度熱処理により非常に硬くできる
高耐摩耗性摩擦に強く、寿命が長い
高強靱性割れにくく耐衝撃性がある
耐熱性高温でも硬さが落ちにくい

工具が摩耗したり変形すれば製品精度が落ちるため、性能維持が最優先です。

工具鋼の分類(JIS規格)

JISでは用途や特性に応じて大きく3分類されています。

分類JIS記号(例)特徴主な用途
冷間工具鋼SKD11 / SKS3 など室温での加工に使う
耐摩耗性が高い
プレス金型、打抜きパンチ
熱間工具鋼SKD61 / SKT4 など高温下でも硬さ維持ダイカスト金型、鍛造金型
高速度工具鋼(ハイス)SKH51 / SKH9 など切削速度が高くても刃先強い切削工具(ドリル、エンドミル)

さらに、

  • 炭素工具鋼(SK材)
  • 粉末ハイス(強靱性UP)
    など細かく種類があります。

加工・熱処理の注意点

注意点解説対策例
熱処理変形が大きい応力が溜まりやすい荒 → 熱処理 → 仕上げ
工具摩耗が激しい高硬度ゆえ切削性が悪い超硬工具、低切削速度
価格が高い合金量・品質が高い最適部位に限定使用

➡ 設計段階から「熱処理計画+加工工程」が必須。

耐熱鋼

耐熱鋼(たいねつこう)とは、
高温環境でも強度や耐食性を失わず使用できる鋼材のことです。

一般的な鋼材は高温になると
✅ 強度が低下
✅ 酸化して錆びる
という問題がありますが、耐熱鋼は
600℃前後の高温でも性能を維持できます。

耐熱鋼の主な特徴

特性内容
高温強度熱による変形や破断に強い
耐酸化性高温酸化(スケール)に強い
耐クリープ性高温で長時間荷重がかかっても形が崩れにくい

➡ 高温下での「長時間使用」に最適な鋼材です。

耐熱鋼はどんな仕組み?

主に以下の合金元素を添加して性能を強化します。

元素効果
Cr(クロム)耐酸化性UP
Ni(ニッケル)高温靱性UP、耐食性UP
Mo / W耐熱強度UP
Nb / Ti組織安定化・耐クリープ性向上

Niが多い=高温性能が高いと覚えると理解しやすいです。

耐熱鋼の主な種類(JIS)

分類代表材使用温度特徴
耐熱ステンレス鋼SUS304、SUS310S~900℃コストと性能のバランス◎
Ni基耐熱合金(超合金)Inconel718、NCF系~1000℃超耐熱性・耐食性が最も優れる
フェライト系耐熱鋼SUH409、SUH430~800℃排気系向け、低コスト

➡ 特に SUS310S は高温炉設備で多用されます。

加工・設計上の注意点

項目注意点対策
切削性粘り強く、加工が難しい超硬工具、低速切削
熱膨張高温で大きく伸びる設計時にクリアランス確保
高価格Ni量に比例して高価必要部位に限定使用

➡ 低温部は一般鋼、高温部のみ耐熱鋼を使う設計が一般的。

耐摩耗鋼

耐摩耗鋼とは、
摩擦によって材料がすり減る “摩耗”に強い鋼材 のことです。

土砂・鉱石・製品と直接触れ続ける部品は削れやすいため、
耐摩耗鋼を使うことで 部品寿命を大幅に延ばす ことができます。

耐摩耗鋼の特徴(なぜすり減りにくい?)

特性内容
耐摩耗性が高い摩擦・衝撃による減耗を抑える
高硬度HRC40〜60クラスまで硬くできるものも
耐衝撃性・靱性強い衝撃でも割れにくい
熱処理性が良い焼入れにより目的に応じて硬さ調整可能

▶ 硬くて粘り強い のが最大の特徴。
合金元素(Cr、Mn、Mo など)で特性を強化します。

耐摩耗鋼の代表的な種類

分類代表材特徴主な用途
耐摩耗鋼板(汎用)NM400 / NM450 / NM500 / AR400摩耗性に優れコスパ◎バケット・ホッパー・シュート
高靱性耐摩耗鋼HARDOX450/500高強度+割れにくい建機・鉱山設備
工具鋼系耐摩耗材SKD11 など強摩耗・変形負荷に対応金型、スライド部品
ステンレス系耐摩耗鋼SUS440C など耐食性も優れる食品・化学設備部材

➡ 一般的には 硬さの数字が大きいほど摩耗に強い と覚えると簡単です。
(例:NM400<NM500<NM600)

加工・設計時の注意点

注意点理由対策
切削が困難高硬度で刃先が持たない超硬工具 / 低速切削 / 切断はプラズマ推奨
溶接性が低い場合あり硬さと靱性のバランスが難しい予熱・後熱などの施工管理
極端に硬すぎると割れやすい靱性が低下使用環境と応力に応じて等級選定

➡ 硬さ一辺倒ではなく、靱性とのバランスが重要

ベアリング鋼

ベアリング鋼(軸受鋼)とは、
回転軸を支える ベアリング(軸受)に使用される特殊鋼で、
転がり疲労に強く、摩耗しにくいことが最大の特徴です。

一般的には 高炭素クロム鋼が使用され、
日本のJIS規格では SUJ2 が最も広く普及しています。

ベアリング鋼の主な特性

特性内容
高硬度・高強度表面が硬く、変形しにくい
高い疲労強度長期間の回転荷重に耐える
耐摩耗性が高いボール・レース間の摩耗を抑える
清浄度が高い介在物が少ない=破損リスクが小さい
寸法精度に優れる高精度ベアリングに対応

※清浄度とは、鋼中の不純物がどれだけ少ないかを示す品質指標。
ベアリング鋼では特に重要な要素です。

主な材料規格と特徴

材料名規格例特徴
SUJ2JIS G 4805代表的な高炭素クロム鋼。ボール・レースに広く使用
52100ASTM A295海外で一般的なベアリング鋼(SUJ2相当)
SUJ3JIS中炭素クロム鋼、溶接性・靭性を向上
ステンレスベアリング鋼SUS440Cなど耐食性が必要な用途向け(海水・薬品環境など)

加工上のポイント

工程注意点
焼入れ・焼戻し過度な熱処理は寸法変化や割れの原因
研削加工熱の持ち過ぎによる研削焼けに注意
清浄度管理介在物が疲労破壊につながるため厳しく管理

特に、熱処理・研削工程での品質管理が寿命を左右します。

合金鋼の用途

合金鋼は、その優れた特性からさまざまな分野で使用されています。以下は、合金鋼の主な用途とそれに対応する具体的な例です。

自動車産業

合金鋼は自動車部品に広く使用されています。高い強度や耐摩耗性、耐熱性が求められる部分に適しています。

  • エンジン部品(クランクシャフト、カムシャフト、ピストンリング)
  • トランスミッション部品(ギア、シャフト)
  • サスペンション部品(ばね、アーム)

建設および土木

建設機械や構造物の材料として、耐久性や強度が求められる箇所に使用されます。

  • 建築構造材(鉄骨、梁、柱)
  • 重機部品(ショベルアーム、クレーン部品)
  • 橋梁やトンネル(耐腐食性のある鋼材)

航空宇宙産業

航空機や宇宙機器では、軽量かつ強度が高く、耐熱性や耐疲労性が求められるため、合金鋼が適しています。

  • ジェットエンジン部品(タービンブレード、シャフト)
  • 航空機構造材(ランディングギア)
  • ロケット部品(推進システム)

エネルギー産業

発電所や石油・ガス産業では、厳しい環境下での耐久性が重要です。

  • ボイラーやタービン部品(耐熱性が必要)
  • パイプライン(耐腐食性、耐圧性)
  • 原子力発電施設(耐放射線性の部材)

工具および切削工具

高い硬度と耐摩耗性が求められる工具の製造に使用されます。

  • 切削工具(ドリル、フライス、旋盤用工具)
  • 型・金型(プレス用、射出成形用)
  • ハンドツール(スパナ、ハンマー)

化学・食品産業

腐食環境に耐える必要がある設備や器具に使われます。

  • 化学プラント(耐酸性、耐腐食性の容器、配管)
  • 食品加工機器(衛生基準を満たすステンレス製器具)

軍事および防衛産業

高強度かつ耐衝撃性を持つ合金鋼は、軍事用途にも活用されます。

  • 防護装甲材(戦車、装甲車)
  • 武器部品(銃身、砲身)

ステンレス鋼などの合金鋼は、医療機器の材料としても重要です。

  • 手術器具(メス、鉗子)
  • 医療用インプラント(人工関節、スクリュー)

合金鋼は、その特性に応じて自動車、航空、建設、エネルギー、化学、医療など、幅広い分野で使用されています。用途ごとに適切な合金成分を選択することで、最適な性能を発揮することができます。

まとめ|用途に合わせて最適な合金鋼を選ぶ

初心者の判断基準ベスト3
✅ 強度・耐摩耗なら:SCM / SNCM
✅ 腐食に強い材なら:SUS 系
✅ 金型や工具用途なら:SKD / SKH

合金鋼は性能向上の幅が広く、設計・加工・熱処理が連携して真価を発揮します。
初心者ほど「用途に合うか?」を第一に選定すると失敗しません。

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