ステンレス鋼にはさまざまな種類がありますが、その中でも加工性に特化した「SUS303」は、多くの機械加工業者から高く評価されています。
今日は、SUS303の化学的性質や機械的特性、加工上のメリット・デメリット、他ステンレス鋼との比較、さらには具体的な使用例や注意点まで、詳しく解説していきます。
SUS303とは?JIS規格と組成
SUS303は、JIS G4303で規定されているオーステナイト系ステンレス鋼です。
元素 | 含有量の目安(wt%) |
---|---|
クロム(Cr) | 約17~19 |
ニッケル(Ni) | 約8~10 |
鉄(Fe) | 残部 |
硫黄(S) | 約0.15~0.35(加工性向上のため) |
この硫黄の添加こそが、SUS303最大の特徴です。硫黄は被削性(加工性)を劇的に向上させますが、その代わりに耐食性が低下します。
SUS303の主な特徴(詳細解説)
1. 加工性に優れる
SUS303は、硫黄の影響で切削工具の摩耗が少なく、チップの排出もスムーズ。これにより、高精度な部品加工や大量生産がしやすくなります。
- 工具寿命の延長
- 切削条件の自由度が高い
- 精密加工(公差±0.01mm以下)も対応可能
2. 耐食性は304より劣る
硫黄は鋼材中で不均一に分布することが多く、粒界腐食や点腐食の原因となります。そのため、水分・塩分の多い環境には不向きです。
腐食環境で使う場合は、以下のような工夫が必要です。
- 表面を鏡面仕上げにする(汚れ・水分の残留を防ぐ)
- コーティング処理やメッキで補強する
- 屋内や乾燥環境での使用に限定する
3. 溶接性が悪い
SUS303は溶接に適していないステンレス鋼です。硫黄が高温で偏析し、溶接部に割れやすい脆弱な相を作り出すからです。
どうしても溶接が必要な場合
- 事前に硫黄分の少ない303Se(セレン添加材)を選定する
- 溶接後に溶接部を機械加工で除去・修正する
- SUS304など他材質を併用検討する
SUS303と他ステンレス鋼の比較
特性 \ 材質 | SUS303 | SUS304 | SUS316 |
---|---|---|---|
加工性 | ◎ 非常に良い | ○ 良好 | △ やや劣る |
耐食性 | △ やや低い | ◎ 高い | ◎ 高い(塩水環境にも強い) |
溶接性 | × 不向き | ◎ 優れる | ◎ 優れる |
主な用途 | 機械加工品 | 汎用部品 | 化学・医療系部品 |
SUS303の代表的な用途
SUS303はその加工性から、高精度・高効率な量産加工に向いている素材です。
◎ 産業用途
- シャフト、軸受、継手、スペーサー、カム、ピン
- NC旋盤・マシニングによる精密部品
- 自動車部品(内装機構・操作部品)
- エアシリンダーの部品
◎ 日用品・インテリア
- ドアノブや取っ手などの金具
- 水回り以外の装飾パーツ
- 家具や照明のパーツ(見た目重視)
SUS303を使用する際の注意点
- 高湿度・腐食性の環境では避ける
→ SUS304やSUS316などを優先しましょう。 - 溶接はなるべく避け、ねじ固定や圧入で対応
→ 分解や交換がある部品にも有利です。 - 寸法安定性と表面粗さを意識した設計
→ 精密部品では「研削仕上げ」や「鏡面加工」で品質UP。
まとめ:SUS303は“切削の王様”
SUS303は「加工性を最重視したステンレス」です。
耐食性や溶接性に制限はありますが、適切な場所・方法で使えば、コストパフォーマンスも高く、生産性の高い選択肢になります。
素材選定に迷ったときは、以下のように考えてみてください:
- 加工性重視 → SUS303
- バランス重視 → SUS304
- 耐食性重視 → SUS316