はじめに
製造業において「加工時間」は、見積り、工程設計、生産計画、原価計算のすべてに関わる重要な要素です。特にマシニングセンタやNC旋盤を使用した機械加工では、切削条件によって加工時間が大きく変化するため、正確な計算方法を理解しておく必要があります。
しかし実際の現場では、単純な計算式だけでなく、工具の進入・退出距離、早送り時間、工具交換時間なども考慮しなければ正確なサイクルタイムは求められません。
今回は、旋削加工、フライス加工、穴あけ加工の加工時間計算方法を基礎から詳しく解説するとともに、実務で使用される考え方についても紹介します。
切削加工時間とは
切削加工時間とは、工具が材料を実際に削っている時間を指します。
一般的に加工時間は以下の要素で構成されます。
総加工時間=切削時間+早送り時間+工具交換時間+段取り時間+測定時間+機械待機時間
今回解説する計算式は、このうちの「純粋な切削時間」を求めるものです。
切削速度・送り速度・回転数の関係
加工時間を求めるためには、まず切削条件の関係を理解する必要があります。
切削速度(Vc)
切削速度とは工具の外周が1分間に移動する距離を表します。
単位
m/min
切削速度が高いほど加工時間は短縮されますが、
- 工具寿命低下
- 発熱増加
- 加工精度低下
などの問題が発生します。
主軸回転数(N)
切削速度から求められる主軸の回転数です。
計算式
記号
- N:主軸回転数(rpm)
- Vc:切削速度(m/min)
- D:工具または工作物径(mm)
送り速度(F)
送り速度は工具が1分間に移動する距離です。
旋削の場合
フライスの場合
記号
- F:送り速度(mm/min)
- f:送り量(mm/rev)
- fz:1刃あたり送り量(mm/tooth)
- Z:刃数
- N:回転数
旋削加工時間の計算
基本式
旋削加工では工具が軸方向へ送りながら加工を行います。
加工時間は
となります。
記号
- T:加工時間(分)
- L:切削距離(mm)
- f:送り量(mm/rev)
- N:主軸回転数(rpm)
実務での切削距離
実際には加工長さだけではありません。
例えば
- 加工長さ:200mm
- 切込み長:3mm
- 抜け代:2mm
の場合
として計算します。
計算例
条件
- 切削速度:120m/min
- ワーク径:60mm
- 送り量:0.3mm/rev
- 加工長さ:200mm
回転数
送り速度
加工時間
約63秒となります。
フライス加工時間の計算
フライス加工では回転する工具の複数刃によって加工が行われます。
基本式
各項目
- L:切削距離
- fz:1刃あたり送り量
- Z:刃数
- N:回転数
実際の切削距離
平面加工では
が一般的です。
これは工具が完全にワークへ進入・退出するためです。
計算例
条件
- 切削速度:150m/min
- エンドミル径:20mm
- 4枚刃
- 送り:0.08mm/tooth
- 加工距離:500mm
回転数
送り速度
加工時間
約39秒となります。
穴あけ加工(ドリル加工)の時間計算
ドリル加工では軸方向へ工具が送り込まれます。
基本式
旋削加工と同じ形になります。
実際の穴深さ
ドリル先端は円錐形状をしているため、
が必要です。
一般的には
程度加算します。
計算例
条件
- ドリル径:10mm
- 切削速度:80m/min
- 送り量:0.2mm/rev
- 穴深さ:30mm
回転数
送り速度
加工時間
約3.5秒となります。
実際のNC加工で考慮すべき時間
現場では計算上の切削時間だけでは不十分です。
工具交換時間
ATC(自動工具交換装置)では
- 小型MC:2~4秒
- 中大型MC:4~10秒
程度かかります。
早送り時間
工具が加工位置へ移動する時間です。
最近のマシニングセンタでは
- 24m/min
- 36m/min
- 48m/min
程度の早送り速度があります。
加工点数が多いほど影響が大きくなります。
加減速時間
NC機は瞬時に最高速度へ到達できません。
短い加工では加減速の影響が大きく、
理論値より加工時間が長くなります。
加工時間短縮のポイント
高送り加工の活用
高送りカッタを使用することで送り速度を大幅に向上できます。
工具径の最適化
大径工具を使用すると、
- 切削幅増加
- パス回数減少
によって加工時間を削減できます。
工程集約
複合加工機や5軸加工機を活用することで、
段取り替え時間や位置決め時間を削減できます。
まとめ
切削加工時間の計算は、加工条件の設定や見積り精度向上に欠かせない基礎知識です。
基本となる考え方は「切削距離 ÷ 送り速度」であり、旋削・フライス・穴あけのいずれもこの原理に基づいています。しかし実際の製造現場では、切込み距離、抜け代、工具交換、早送り移動、加減速時間なども加味する必要があります。
正確な加工時間を把握することで、生産性向上、コスト削減、納期短縮につながります。特に近年はCAMソフトやシミュレーション技術の発展により高精度なサイクルタイム予測が可能になっていますが、その根底には今回紹介した基本計算式の理解が欠かせません。加工技術者や生産技術担当者は、理論計算と実加工データの両方を活用しながら最適な加工条件を構築することが重要です。


