金属加工・工具製作の現場では、「材料選定」が製品性能やコストに大きく影響します。中でも古くから使用されている「炭素工具鋼(Carbon Tool Steel)」、通称「SK材」は、焼入れによる硬化性と経済性から多くの分野で支持されています。
今日は、SK材の構造的な特徴・種類ごとの違い・用途に応じた選定基準・合金工具鋼との違いまでを詳しく解説し、現場での「正しい材料選び」を支援します。
炭素工具鋼(SK材)とは?
炭素工具鋼は、鉄(Fe)に炭素(C)を添加し、焼入れによって硬化させる金属材料です。JIS(日本産業規格)では「SK」の記号で表され、炭素含有量の多寡によりSK1〜SK7に分類されます。
▶ SK材の特徴
特性 | 説明 |
---|---|
焼入れ性 | 空冷または油冷で硬化する。組織はマルテンサイト化し、高硬度を実現。 |
切削性 | 熱処理前は切削しやすく、加工性が高い。 |
耐摩耗性 | 焼入れ後は高硬度となり、摩耗しにくい。 |
コスト | 合金鋼よりも安価で入手性が高い。 |
注意点 | 焼入れ時の変形・割れに注意。耐食性や高温強度は低い。 |
SK材の種類と炭素含有量の違い
SK材の種類は、主に炭素含有量(約0.6~1.2%)によって分けられます。炭素量が増えるほど硬度と耐摩耗性が向上しますが、同時に靭性(割れにくさ)は低下します。
鋼種 | 炭素量 | 主な特性 | 代表的用途 |
---|---|---|---|
SK1 | 約1.2% | 極めて高硬度・極めて脆い | 彫刻刀、ゲージ、極薄刃 |
SK2 | 約1.1% | 高硬度・高耐摩耗性 | 精密工具、耐摩耗部品 |
SK3 | 約1.0% | 硬さと靭性のバランス良好 | ノコギリ、彫刻刃 |
SK4 | 約0.9% | 実用工具向け | ハサミ、カッター |
SK5 | 約0.8% | 万能型、コストパフォーマンス良好 | ドライバー、刃物一般 |
SK6 | 約0.7% | 靭性寄り、加工しやすい | 一般刃物、工具部品 |
SK7 | 約0.6% | 最も靭性が高い・柔らかい | 型枠、安価な工具 |
熱処理による性質変化
炭素工具鋼の真価は、熱処理によって発揮されます。
▶ 焼入れ(Quenching)
- 加熱後急冷してマルテンサイト組織を形成。
- 硬度はHRC60以上になることも。
- 変形・割れのリスクがあるため、寸法精度が必要な部品では注意が必要。
▶ 焼戻し(Tempering)
- 焼入れ後の脆さを軽減する処理。
- 焼戻し温度により、靭性と硬度のバランスを調整可能。
用途別!SK材の実用的な選定ポイント
● 切れ味重視 → SK1・SK2
焼入れ後の硬度が高く、耐摩耗性に優れるが衝撃には弱い。彫刻刀・測定具・切断刃など、精密性が求められる場面で使われます。
● 汎用工具・コスト重視 → SK4・SK5
硬度と加工性のバランスに優れ、価格も手頃。ハサミ、カッター、紙刃、DIY工具に多く採用されます。
● 衝撃・曲げ応力がかかる用途 → SK6・SK7
靭性があり、破断しにくい。型枠、建設用工具、安価な量産品に最適。
炭素工具鋼 vs 合金工具鋼
比較項目 | 炭素工具鋼(SK材) | 合金工具鋼(SKS、SKDなど) |
---|---|---|
合金元素 | ほとんど含まない | クロム、モリブデンなどを添加 |
焼入性 | 空冷または油冷 | 油冷・空冷・大気冷まで可能 |
耐熱性 | 低い(200℃程度まで) | 高温使用にも耐える |
耐食性 | 錆びやすい | 合金により改善される場合あり |
価格 | 安価 | 高価(用途により差) |
用途 | 一般工具、刃物、金型 | 高性能金型、精密工具、冷間・熱間加工用工具 |
選定のポイント
- 高温下や耐衝撃性が必要 → 合金工具鋼
- コストと加工性重視 → SK材
加工現場での注意点と設計上のヒント
● 加工前
- 焼入れ前は切削加工がしやすく、最終加工は焼入れ後に研磨で調整する。
- 歪みを見越した設計が必要(とくに長尺物)。
● 熱処理時
- 焼入れ時の冷却速度を適切に管理。
- 部品の形状・厚みにより熱処理条件を調整。
● 表面処理
- 耐摩耗性や防錆性を補うため、黒染め、窒化、表面硬化処理などを併用する場合も多い。
まとめ:SK材を理解すれば工具の選定が変わる!
炭素工具鋼(SK材)は、その単純で明快な材質構成と熱処理による多様な性質変化により、現代でも根強く使われ続けています。工具や刃物、金型など、多様な製品で活用されており、「SK1~SK7」という分類を理解することで、現場での最適な材料選定が可能になります。
設計段階から「求める性質」を明確にし、それに最適なSK材を選ぶことで、製品の寿命・品質・加工効率のすべてが向上します。