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現場で役立つ!フェライト系・オーステナイト系ステンレス鋼の性質と用途

金属材料の基礎知識

ステンレス鋼の基礎知識と分類の重要性

ステンレス鋼とは、主成分に鉄(Fe)をもち、クロム(Cr)を10.5%以上含む合金鋼のことを指します。クロムの働きにより酸化被膜(不動態皮膜)が形成されることで、高い耐食性を有するのが特徴です。

ステンレス鋼は主に以下の5つに分類されます。

  • フェライト系
  • オーステナイト系
  • マルテンサイト系
  • 二相系(デュプレックス系)
  • 析出硬化系(PH系)

その中でも、汎用性が高く、現場で最もよく使われるのが「フェライト系」と「オーステナイト系」です。両者は金属組織・添加元素・物理的特性・価格帯・適した用途が大きく異なります。

今日は、製造・加工・設備設計・建築の現場で実際に役立つように、フェライト系とオーステナイト系ステンレス鋼の違いと用途を体系的かつ実践的に解説します。

フェライト系ステンレス鋼の特徴と性質

基本構造と化学組成

  • 主成分:鉄(Fe)+クロム(Cr)13〜30%
  • 炭素(C):低め(0.08%以下)
  • ニッケル(Ni):基本的に含まないか、ごく少量
  • 結晶構造:体心立方格子(BCC)=フェライト組織

性質のポイント

項目特徴
磁性あり(磁石にくっつく)
耐食性中程度(環境によっては孔食や応力腐食割れに注意)
耐酸化性良好(高温下での使用も比較的安定)
成形加工性やや劣る(深絞りや複雑形状には不向き)
溶接性要注意(溶接割れのリスクあり。対策が必要)
熱膨張係数小さい(熱変形を抑制できる)
コスト安価(Niを含まないため価格変動の影響が小さい)

主な鋼種例

  • SUS430(最も代表的なフェライト系)
  • SUS409(耐熱性重視、自動車用)
  • SUS444(耐食性向上型、高クロム系)

主な用途

  • 自動車部品(排気管、マフラーカバーなど)
  • 家電製品(冷蔵庫背面パネルなど)
  • 屋外建材(屋根材、壁材)
  • 流通機器(ショッピングカート、陳列棚)

オーステナイト系ステンレス鋼の特徴と性質

基本構造と化学組成

  • 主成分:鉄(Fe)+クロム(Cr)+ニッケル(Ni)
  • ニッケル含有量:8〜12%以上
  • 結晶構造:面心立方格子(FCC)=オーステナイト組織(常温で安定)
  • モリブデン(Mo)やマンガン(Mn)などで性能を調整

性質のポイント

項目特徴
磁性なし(非磁性体)
耐食性非常に優れる(海水・酸性・アルカリ環境でも使用可)
成形加工性良好(深絞り、曲げ加工、溶接性も◎)
溶接性非常に良好(靭性の低下が起きにくい)
耐低温性優れる(極低温でも延性を保つ)
熱膨張係数大きめ(熱変形に注意が必要)
コスト高価(Ni価格に依存)

主な鋼種例

  • SUS304(最も汎用的。オーステナイト系の代名詞)
  • SUS316(Mo添加で耐塩害性UP。海水環境に強い)
  • SUS310S(高温環境向け耐熱鋼)

主な用途

  • 食品加工設備(タンク、配管、加熱機器)
  • 化学プラント(酸・アルカリ環境)
  • 医療機器(手術器具、内視鏡)
  • 建築内装(キッチン、エレベーター)
  • クリーンルームや真空装置など高純度要求分野

フェライト系 vs オーステナイト系|性能比較一覧表

性能項目フェライト系オーステナイト系
組織フェライト(BCC)オーステナイト(FCC)
磁性ありなし
耐食性普通優れている
耐応力腐食割れ強いやや弱い(対策必要)
加工性やや劣る非常に良好
溶接性難あり(割れやすい)良好
熱膨張小さい(寸法安定)大きい(歪みに注意)
価格安価高価(Ni相場に依存)

用途別・現場での選定ポイント

● 加工コストを抑えたい場合

→ フェライト系(例:SUS430)。特に装飾性が不要なパーツや屋内部材に向いています。

● 酸や塩分などの腐食環境に晒される場合

→ オーステナイト系(例:SUS316)。食品・化学・海洋環境に最適です。

● 深絞りや複雑な加工が必要な部品

→ オーステナイト系が加工硬化性に優れ、形状自由度が高いです。

● 磁性が必要 or 不要な場面

→ 磁性あり=フェライト系非磁性が条件=オーステナイト系

実際の使用現場の事例紹介

  • 事例1|厨房設備メーカー(食品衛生法対応)
     洗浄性・耐食性を考慮し、SUS304を採用。溶接後も酸洗+パッシベーション処理を行い、耐腐食性を向上。
  • 事例2|排気系部品の量産現場(自動車)
     SUS409Lでコストと耐熱性のバランスを確保。溶接性にも配慮し、高周波溶接を採用。
  • 事例3|海洋構造物メーカー
     海水との接触が避けられないため、モリブデン添加のSUS316Lを標準化。

まとめ|鋼種の選定が製品品質とコストを左右する

フェライト系とオーステナイト系ステンレス鋼は、それぞれが異なる強みを持ち、使用環境やコスト条件によって使い分けが非常に重要です。

選定の基本指針
コスト優先:フェライト系
高耐食性が必要:オーステナイト系
加工性重視:オーステナイト系
高温や磁性が重要:フェライト系または二相系

また、近年ではフェライト系の高性能化(高Cr・Mo添加)や、デュプレックス系ステンレスの普及により、選択肢がさらに広がっています。

用途や目的に応じて、最適な材料選定が製品の寿命・信頼性・コスト最適化に直結します。材料選定でお悩みの際は、ぜひ専門商社や材料技術者への相談も検討してください。

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