金属加工の現場では、製品の精度やコスト、量産性、素材特性などに応じて最適な加工法を選択することが求められます。中でも「エッチング加工(chemical etching)」と「切削加工(machining)」は、用途によって使い分ける必要がある代表的な2つの加工技術です。
今日は、加工原理・対応素材・設計制約・コスト構造・精度・応力・加工時間など、あらゆる観点から両者を徹底比較。微細精密部品の設計・外注先選定に悩む方に向けた実践的な解説をお届けします。
1. 加工原理の違い|物理加工 vs 化学加工
● 切削加工:物理的に材料を除去する加工法
マシニングセンタやCNC旋盤などの工具を用いて物理的に素材を削る方法です。切削速度・送り・工具径などを最適化することで、三次元形状の自由度や寸法精度を追求できます。
代表的な工程
- 荒削り → 中仕上げ → 仕上げ加工
- クーラント使用で熱変形を抑制
- 工具摩耗と加工条件に注意が必要
● エッチング加工:化学反応による選択的腐食
エッチング加工は、マスク処理によって不要部分だけを薬液で溶解する「非接触の化学加工」です。主にフォトリソグラフィと呼ばれる技術が用いられ、光と感光性レジストを使って微細なパターン形成を行います。
代表的な工程
- 素材洗浄
- レジスト塗布
- マスクと露光
- 現像処理
- 薬液によるエッチング
- レジスト剥離・洗浄
2. 対応可能な素材・形状
項目 | エッチング加工 | 切削加工 |
---|---|---|
対応素材 | ステンレス、銅、ニッケル、真鍮、モリブデンなどの薄板金属(主に0.01~1mm) | アルミ、鉄、ステンレス、チタン、樹脂、焼結材など、厚板もOK(〜100mm以上) |
対応形状 | 平面パターン(微細メッシュ、微小穴など)に強み | 立体形状、深穴、ネジ切り、ザグリ、曲面形状も可 |
微細加工 | ±0.01mm以下の精度も可能(用途により±数μm) | 微細加工は工具径制約あり(φ0.1mmが限界目安) |
設計自由度 | 小径穴・細幅・異形カット対応、ただし立体不可 | 3次元自由曲面・斜め穴・溝形状などにも対応可 |
3. 加工精度と品質
● エッチング加工の強み
- 無応力加工
機械的負荷が一切かからず、歪み・バリ・クラックの発生がない - 高精度・高再現性
同一マスクで大量再現が可能 - 表面仕上げが滑らか
化学反応による鏡面に近いエッジ
● 切削加工の強み
- 立体形状における高精度
工具・NC制御により高精度加工が可能(±0.01mm~) - 多工程制御が可能
ポケット加工、段付き穴、複合加工など
4. コスト構造の違いと経済性
項目 | エッチング加工 | 切削加工 |
---|---|---|
初期コスト | 低(フォトマスク作成費のみ) | 高(治具設計・工具費が必要) |
製作リードタイム | 短い(1~3営業日も可能) | 中~長期(材料手配・段取りが必要) |
小ロット対応 | 非常に得意(1枚~OK) | 単品可だが工数がかかる |
量産性 | マスク使いまわしで一貫品質の量産が可能 | NCプログラムで量産可能、ただし刃物摩耗に注意 |
5. エッチング加工が向いている用途
用途カテゴリ | 具体例 |
---|---|
精密電子部品 | コネクタ端子、電磁波シールド、フレキシブル回路部品 |
医療部品 | ステンレス製マイクロパーツ、注射針用フィルター部 |
機構部品 | 薄板スプリング、微細ギア、シムプレート |
意匠部品 | ネームプレート、ブランドロゴ、金属メッシュ |
6. 切削加工が向いている用途
用途カテゴリ | 具体例 |
---|---|
一般機械部品 | シャフト、ハウジング、フランジ、軸受け |
金型・治具 | モールドベース、放電電極、専用ジグ |
試作開発 | 組立用部品、調整穴付きブロック、組み合わせ部品 |
多面加工 | キー溝加工、複雑な凹凸形状のパーツ |
7. 設計者が注意すべきポイント
エッチング加工の場合
- 最小加工幅・隙間は素材厚の約1~1.5倍が目安
- 素材厚みごとに最適な薬液濃度・処理時間が必要
- 表裏同時加工の場合、レジストずれに注意
切削加工の場合
- 最小工具径による制限を設計で考慮(特に深穴・溝)
- 工具干渉や段取り変更が必要な複雑形状に注意
- 熱変形・切削応力を想定した公差管理が必要
まとめ:目的に応じて加工法を使い分けよう
「薄くて精密なパターンを短納期で作りたい」「応力や変形のない部品が必要」なら、エッチング加工が最適です。一方、「立体構造で高剛性が求められる」「厚物を高精度に削りたい」といった場合には、切削加工がベストです。
いずれの加工も、用途・形状・ロット・納期・コストのバランスを見て判断することが重要です。