コスト・品質・精度のバランスを取る素材選びの鍵とは?
製品の設計段階において、「軽量化したい」「外観をきれいに仕上げたい」「加工コストを抑えたい」といったニーズに直面することは珍しくありません。そのようなとき、機械部品や外装部品の素材として有力なのが亜鉛合金(Zinc Alloy)です。
今日は、亜鉛合金の「加工性」「耐食性」「強度」に焦点を当て、設計者・調達担当者が素材選定に失敗しないための知識を詳しく解説します。また、他の金属材料との比較や活用シーン、注意点についても紹介していきます。
1. 亜鉛合金とは?―構造と基本分類
亜鉛合金は、亜鉛を主成分として他の金属(主にアルミニウム・マグネシウム・銅)を添加することで物性を調整した合金です。主に以下のようなタイプがあります。
● ダイカスト用亜鉛合金(ZDC)
- ZDC1:一般的な用途向け
- ZDC2:強度・硬度が必要な用途に適する(銅分多め)
- ZDC3〜5:加工性・耐食性などバランス型
● 圧延・鍛造用亜鉛合金
- 冷間加工用として使われ、薄板やプレス部品に最適。
● 黄銅(真鍮)系合金
- 見た目や導電性が重視される用途(インテリア、電気部品など)に用いられる。
2. 加工性の高さが支持される理由とは?
亜鉛合金が多くの業界で重宝される最大の理由の一つが「極めて優れた加工性」です。特にダイカスト製法との相性が抜群であり、複雑形状・高精度部品の量産において大きなアドバンテージとなります。
■ 鋳造性:薄肉でもしっかり成形できる
- 低融点(約420〜480℃)により、短時間で溶解・鋳造が可能
- 高い流動性により、複雑形状・薄肉部品でも鋳巣が少ない
- 寸法精度が高く、仕上げ加工の手間を省ける
■ 二次加工性:切削・研磨・表面処理も簡単
- 柔らかく、切削抵抗が小さいため工具摩耗が少ない
- 研磨やバフ仕上げも容易で、光沢仕上げにも向く
- メッキや塗装との相性が良く、装飾性にも優れる
■ 金型の寿命:生産性にも貢献
- ダイカスト時の温度が比較的低いため、金型の摩耗が少なく寿命が長い
- アルミ合金より金型コストを抑えやすい
3. 耐食性|腐食を防ぐ自然被膜と表面処理の両立
■ 自然被膜による保護機構
- 亜鉛は空気中の酸素や水分と反応して、酸化亜鉛(ZnO)や水酸化亜鉛(Zn(OH)₂)といった保護膜を形成。
- これにより、内部への腐食進行が抑えられ、自己修復性のある保護層として働きます。
■ 犠牲防食機能(ガルバニック防食)
- 亜鉛は鉄や鋼よりもイオン化傾向が高いため、電食時に亜鉛が優先的に腐食する=犠牲防食。
- 配線部品や建築外装材などでも使われる所以。
■ 表面処理でさらに強化
- メッキ(ニッケル、クロム、三価クロム)
- アノダイズ処理(陽極酸化)
- パウダーコーティング
- これらを組み合わせることで、屋外や塩害地域でも長期耐久が可能。
4. 強度性能|部品の用途に応じた調整が可能
■ 引張強度・降伏強度の目安(代表値)
合金名 | 引張強さ (MPa) | 硬さ(HRB) | 特徴 |
---|---|---|---|
ZDC1 | 約280〜320 | 80〜90 | 一般的なダイカスト用 |
ZDC2 | 約350以上 | 90〜100 | 強度・摩耗性◎ |
ZDC5 | 約300前後 | 85〜95 | 耐食性バランス型 |
※数値は代表値であり、鋳造条件や冷却速度によって変動あり
■ 靭性と脆性のバランス
- 低温では脆くなりやすい性質があるため、極寒環境では樹脂やステンレス系の代替検討が必要。
■ 耐摩耗性の向上方法
- 銅やマグネシウムを添加すると、耐摩耗性や引張強さが向上
- ZDC2などは、ギア・スライドパーツにも使われる
5. 他素材との性能比較|どれを選ぶべきか?
比較項目 | 亜鉛合金 | アルミ合金 | マグネシウム合金 | 樹脂(エンプラ) |
---|---|---|---|---|
加工性 | ◎ 複雑形状に最適 | ◯ 一般的 | △ 酸化しやすい | ◎ 射出成形に適す |
強度(比重考慮) | ◯~◎ | ◎ | ◯ | △ |
耐食性 | ◯ 表面処理必須 | ◎ 耐食Al系多数 | △ 防食必須 | ◎ |
精度・寸法安定 | ◎ 優れている | ◯ 変形リスクあり | △ 酸化・収縮 | ◯ 金型精度依存 |
コスト | ◎ 安価で量産向き | ◯ 中程度 | △ 高価 | ◎(大量生産時) |
6. 活用事例と設計上の注意点
■ 主な使用分野
- 自動車部品:外装メッキ部品、内装スイッチ類
- 家電部品:ヒンジ、コネクタカバー
- 建築金物:ドアノブ、鍵、取っ手など
- 電子機器:精密ダイカスト筐体
- 日用品・雑貨:アクセサリー、装飾パーツ
■ 設計時の注意点
- 熱膨張係数が高めのため、温度変化の大きい環境での寸法変化に留意
- 高温下での機械的性質の低下に注意(耐熱性は樹脂並み)
- ネジ山形成はゆるみ防止対策必須(挿入金具やインサート推奨)
まとめ:亜鉛合金は“安定の万能素材”。コスト重視・高精度要求に最適
亜鉛合金は、「加工しやすい」「表面がきれいに仕上がる」「コストが安い」といった理由から、製品開発・製造において非常にバランスの取れた素材です。用途や使用環境に合わせて適切な合金種を選定することで、高いパフォーマンスを発揮し、量産体制にも柔軟に対応できます。
もしも「アルミではコストが合わない」「樹脂では精度や剛性が不足する」と感じているなら、亜鉛合金を選択肢に加えてみてはいかがでしょうか?