「SKD材」は、JIS(日本工業規格)で定められた工具鋼の一種で、金型やプレス金型、切削工具などの高精度部品に多く使われます。高硬度・高耐摩耗性・熱に対する安定性を持つため、産業界では非常に重要な材料です。
SKD材の種類と特徴
SKD材は主に「冷間用」と「熱間用」に分けられ、用途に応じて選定されます。代表的な種類は以下の通りです。
| 材料名 | 種類 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| SKD11 | 高炭素高クロム工具鋼 | 耐摩耗性に優れる。焼入れ硬度が高く、刃物や金型向き | プレス金型、パンチ、せん断刃、切削工具 |
| SKD61 | クロムモリブデン熱間用鋼 | 高温での靱性と耐摩耗性のバランスが良い | ホットプレス金型、ダイカスト金型 |
| SKD62 | SKD61改良型 | 高温下での耐熱性と耐摩耗性がさらに向上 | 高温条件下の金型 |
| SKD7 | 冷間成形用鋼 | 加工性に優れる。耐摩耗性はやや劣る | プレス金型、冷間成形金型 |
SKD材の化学成分と物理的性質
SKD材の性能は、主に含有元素によって決まります。
SKD11(高炭素高クロム工具鋼)の成分
- 炭素(C):1.50%前後 → 高硬度化に貢献
- クロム(Cr):12%前後 → 耐摩耗性向上、硬化性に寄与
- モリブデン(Mo):0.8%前後 → 焼入れ性と靱性を向上
- バナジウム(V):0.3%前後 → 微細な炭化物を形成し耐摩耗性向上
SKD61(熱間用鋼)の成分
- 炭素(C):0.45%前後 → 適度な硬さと靱性のバランス
- クロム(Cr):5%前後 → 耐摩耗性と耐熱性
- モリブデン(Mo):1%前後 → 高温での硬さ維持
特性比較
- 硬度:SKD11 > SKD61 > SKD7
- 靱性(割れにくさ):SKD61 > SKD7 > SKD11
- 耐摩耗性:SKD11 > SKD61 > SKD7
SKD材の加工性と注意点
- 加工性
- SKD11は高硬度のため切削や研削が難しい
- SKD61やSKD7は比較的加工しやすい
- 研削加工
- 硬化後はダイヤモンド砥石やCBN砥石を使用
- 切削加工
- 加工硬度を考慮して工具寿命を計算する必要がある
熱処理による性能向上
SKD材は熱処理によって硬度や靱性を調整できます。主な工程は以下の通りです。
- 焼入れ
- 高温に加熱後、水冷や油冷で急冷
- 高硬度化と耐摩耗性向上
- 焼戻し
- 適温で加熱後、徐冷
- 靱性を補い、割れを防止
SKD11は焼入れ硬度がHRC58〜62、SKD61はHRC50〜55程度が一般的です。
SKD材の主な用途
- プレス金型・パンチ・ダイ:高耐摩耗性が必要な部品
- ホットプレス金型・ダイカスト金型:高温下でも割れにくく、耐摩耗性が重要
- 切削工具・刃物:硬さと耐摩耗性が求められる
SKD材の選定ポイント
- 用途温度:冷間か熱間かで材質を選定
- 必要硬度:摩耗が激しい場合はSKD11、高温での成形はSKD61
- 加工性:量産で加工性を重視する場合はSKD7
- コスト:高硬度材はコストが高いが寿命が長く結果的に経済的
まとめ
SKD材は「高硬度・耐摩耗性・熱安定性」に優れる工具鋼で、金型や耐摩耗部品の材料として非常に重要です。用途や加工条件によってSKD11、SKD61、SKD62、SKD7などを使い分けることがポイントです。
SKD11とSKD61の比較表
| 項目 | SKD11 | SKD61 |
|---|---|---|
| 種類 | 高炭素高クロム工具鋼(冷間用) | クロムモリブデン熱間用鋼 |
| 炭素含有量 | 約1.50% | 約0.45% |
| クロム含有量 | 約12% | 約5% |
| モリブデン含有量 | 約0.8% | 約1% |
| バナジウム含有量 | 約0.3% | 約0.3% |
| 硬度(焼入れ後) | HRC58〜62 | HRC50〜55 |
| 靱性 | やや低い | 高い |
| 耐摩耗性 | 高い | 中程度 |
| 用途 | プレス金型、刃物、パンチ | ホットプレス金型、ダイカスト金型 |
| 加工性 | 難しい | 比較的加工しやすい |
| 熱安定性 | 中程度 | 高温でも安定 |
熱処理後の硬度・靱性チャート(概略)
硬度(HRC)
|
| SKD11 ██████████
| SKD61 ███████
|
| 靱性
| SKD61 █████████
| SKD11 ████
|
+------------------->
性質のバランス
- SKD11は硬度が非常に高く、摩耗に強い
- SKD61は硬度はやや低いが、靱性と耐熱性が高い
選定のポイント
- 冷間金型・刃物・耐摩耗部品 → SKD11
- 高温での成形・ダイカスト金型 → SKD61
- 加工性を重視し、割れにくさも必要 → SKD61
SKD材の用途別・熱処理条件別推奨材質一覧
| 用途 | 加工条件 | 推奨材質 | 理由 |
|---|---|---|---|
| プレス金型(冷間成形) | 常温で成形 | SKD11 | 高硬度・高耐摩耗性で寿命が長い |
| プレス金型(冷間成形) | 高加工性重視 | SKD7 | 加工しやすく割れにくい |
| ホットプレス金型 | 高温(200〜400℃)で使用 | SKD61 | 高温でも靱性を維持、割れにくい |
| ダイカスト金型 | 高温条件(300〜500℃) | SKD62 | SKD61より耐熱性・耐摩耗性に優れる |
| 切削工具・刃物 | 摩耗が激しい | SKD11 | 高硬度で摩耗に強く精度維持 |
| 耐摩耗部品(パンチ、ダイ) | 繰返し荷重 | SKD11 | 摩耗抵抗が高く寿命延長 |
| 冷間成形金型 | 複雑形状・割れ防止 | SKD7 | 靱性と加工性のバランスが良い |
熱処理条件の目安
| 材質 | 焼入れ温度 | 焼戻し温度 | 仕上げ硬度(HRC) |
|---|---|---|---|
| SKD11 | 1020〜1050℃ | 180〜200℃ | 58〜62 |
| SKD61 | 980〜1020℃ | 550〜600℃ | 50〜55 |
| SKD62 | 980〜1020℃ | 580〜620℃ | 52〜56 |
| SKD7 | 850〜900℃ | 150〜200℃ | 50〜55 |
注:硬度は代表値です。使用条件・形状により調整が必要です。



