アーク溶接は、溶融溶接の中でも最も広く普及している工法であり、高温アークによる溶融・凝固を利用して金属同士を強固に接合する技術です。近年ではロボット溶接・パルス制御・デジタルインバータ化など高度化が進み、材料特性・溶接電源特性・熱影響部(HAZ)の管理がより重要になっています。
今日は、アークの電気的特性から溶接金属の冶金学的変化、主要プロセスの比較まで、専門的な視点で詳細に解説します。
アーク溶接の基礎:アーク現象の電気・物理特性
アークの定義
アークとは、電極と母材間で発生する自己持続性の高温放電現象です。アーク柱は約 4,000~20,000℃ に達し、以下の領域で構成されます。
- カソードスポット(陰極点):電子放出が起こる領域
- アノードスポット(陽極点):電子衝突により熱が集中
- アーク柱領域:電離したプラズマが流れる導電路
アークの温度分布と安定性は、溶接ビード形状・溶融深さ・スパッタ量に直接影響します。
溶接電源の特性:直流(DC)・交流(AC)と極性の関係
アーク溶接では電源の出力特性(外特性カーブ)が重要です。
直流(DC)
- DCEN(電極マイナス):母材への熱集中が大きい → 深い溶け込み
- DCEP(電極プラス):電極側に熱が集中 → アルミの酸化膜除去に有効(TIG)
交流(AC)
正負が交互に切り替わるため、
- 熱集中の平均化
- アークの安定化(高周波HFが必要)
- アルミ酸化膜の掃除作用(EP時)
が得られます。
TIG溶接のアルミでは ヘッドバランス(EP比率) の最適化が仕上げ品質を大きく左右します。
溶接冶金(Metallurgy)|溶融・凝固・熱影響部の変態を理解
アーク溶接では、金属組織が熱履歴により大きく変化します。
溶接金属(Weld Metal)
溶融→凝固する領域。
凝固様式は以下の順に変化します。
- セル状凝固
- デンドライト凝固
- 柱状晶の成長
溶融池の冷却速度が速すぎると偏析や微小気孔が発生しやすい。
熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)
母材の組織が熱のみで影響を受ける領域で、機械的性質変化の要因になります。
鋼材では以下の変態が起こり得ます。
- 粗粒化域:強度が低下し靱性が悪化
- 細粒化域:じん性の高い結晶粒
- 変態域:ベイナイト・マルテンサイト化
- 焼戻し域:軟化の可能性
特に高張力鋼では HAZ 脆化が品質トラブルになりやすく、予熱・後熱が欠かせません。
アーク溶接の主要プロセスと専門的比較
被覆アーク溶接(SMAW)
電極被覆材がガスとスラグを生成し、溶融池を保護します。
メリット
- スラグによる高いシールド効果
- 屋外施工に強い
- 材料の汎用性が広い(SS鋼〜耐熱鋼)
専門ポイント
- アーク長が長いとスパッタ増加・溶け込み不足
- 被覆材成分が溶接金属の組成を大きく左右する
- 吸湿した溶接棒は水素割れの原因 → 乾燥炉管理必須
MIG/MAG溶接(GMAW)
ワイヤ送給とシールドガスで量産に適した工法。
ガス別特性
- MIG(Ar/He):非鉄金属向け(アルミ・ステンレス)
- MAG(CO₂/Ar混合):鉄鋼向け、高コストパフォーマンス
波形制御のポイント
- ショートアーク:薄板向け、スパッタ多い
- スプレー移行:高電流域、溶け込み深い
- パルスモード:薄板でもスパッタ少なく高品質
TIG溶接(GTAW)
不溶性電極(タングステン)+不活性ガス(Ar)で高品質な溶接を実現。
特徴
- 極めて安定したアーク(低スパッタ)
- アーク範囲が細く精密制御可能
- アルミでは AC の EP で酸化膜除去が必須
専門ポイント
- ルートフェイスが薄すぎると焼け落ちのリスク
- 流量が少ないと黒ずみ、過剰だと乱流で不安定
- タングステン電極の形状(先端角度)がビード形状を左右
アーク溶接特有の欠陥と発生メカニズム
気孔(Porosity)
原因
- 母材表面の油・水分
- シールドガス乱流
- 溶接棒の吸湿
- アーク長の不安定
割れ(Cracking)
- 冷却割れ(水素割れ) → 含水・低温・拘束による
- 高温割れ(溶融割れ) → 偏析元素(S,P)と溶融金属の収縮応力
アンダーカット
過大電流・高速走行・不適切なトーチ角が原因。
溶け込み不足
低電流・低電圧・走行速度過多。
欠陥の多くは「熱入力(kJ/mm)」の管理」で防止可能です。
まとめ|アーク溶接は電気・熱・冶金の総合技術
アーク溶接は、単なる「金属を溶かす作業」ではなく、
- アークの電気特性
- 熱入力と冷却速度
- シールドガス特性
- 母材の冶金学的変態
- 電源波形制御
- 作業者の技能
これら複数の要素が複雑に絡み合う高度な技術です。
材料・溶接姿勢・板厚・強度要求に応じ、
SMAW / MIG / MAG / TIG を適切に選定することで、生産性と溶接品質の最適化が可能になります。

