CNC(コンピュータ数値制御)加工では、「インクリメンタル(漸進的)」と「アブソリュート(絶対的)」という座標指定のアプローチがあります。それぞれの特徴と、どのような場面で適しているのかを解説します。
インクリメンタル(Incremental)とは?
インクリメンタルとは、現在の位置を基準として相対的に座標を指定する方法です。Gコードでは「G91」を使用します。
メリット
- プログラムが簡潔になる
短いコードで移動指示が可能。 - 加工中の調整がしやすい
途中で位置を微調整しながら進められる。 - 繰り返し加工に適している
同じ動作を繰り返す場合に有効。 - サイクルプログラムとの相性が良い
ドリル加工やポケット加工など、繰り返しが必要な場合に効率的。
デメリット
- 累積誤差が発生しやすい
相対位置を基準とするため、小さな誤差が蓄積する可能性がある。 - プログラムの解読が難しい
基準が変わるため、動作の追跡が複雑になる。 - エラー時の復旧が困難
途中で基準が変わるため、途中からの再開が難しい。
アブソリュート(Absolute)とは?
アブソリュートは、固定された原点(通常は機械ゼロ点やワークの基準点)を基準に座標を指定する方法です。Gコードでは「G90」を使用します。
メリット
- 精度が高い
累積誤差を防ぎ、一貫した加工が可能。 - トラブル時のリカバリーが容易
基準点に戻ることで、再設定が簡単。 - プログラムの理解がしやすい
各座標が固定されているため、動作の予測が容易。 - 高精度な仕上げ加工に適している
寸法精度が求められる場合に有利。
デメリット
- コードが長くなる
すべての座標を絶対値で指定するため、記述量が増える。 - 柔軟性に欠ける
途中で基準を変えにくい。 - 繰り返し作業には不向き
ループ処理が必要な場合は、コードが冗長になりやすい。
どちらを選ぶべきか?
CNCプログラミングでは、加工の目的や条件に応じて適切な方法を選ぶ必要があります。
- 複雑な形状を加工する場合 → アブソリュート(G90)
- 繰り返し加工が多い場合 → インクリメンタル(G91)
- 高精度な加工が求められる場合 → アブソリュート(G90)
- 試作や微調整が必要な場合 → インクリメンタル(G91)
- 工具補正やオフセットを多用する場合 → アブソリュート(G90)
多くの場合、インクリメンタルとアブソリュートを組み合わせたハイブリッドアプローチが使われます。例えば、大まかな移動はアブソリュートで行い、細かな調整はインクリメンタルで行うといった方法です。
実際のGコード例
インクリメンタル(G91)使用例
G91
G1 X10 Y5 F100
G1 X-10 Y-5
アブソリュート(G90)使用例
G90
G1 X50 Y30 F100
G1 X100 Y60
まとめ
CNC加工において、インクリメンタルとアブソリュートの使い分けは重要です。作業の精度や効率を最大化するために、適切な座標指定方法を選びましょう。特に、G90(アブソリュート)とG91(インクリメンタル)の理解が、精度の高い加工に不可欠です。