- 材料の基本物性(選定時に最初に抑えるべき点)
- 合金別の“実務的”な使い分け(代表例と加工上の特徴)
- 切削加工(切削・穴あけ・ねじ立て)での実務上の違いと対策
- 成形(曲げ・プレス・板金)と加工欠点
- 接合(溶接/接着/リベット)の実務ポイント
- 表面処理と仕上げ(設計・工程に与える影響)
- 寸法公差・精度・仕上がり(実務目安)
- 製造コストに直結する要因(発注時に押さえる)
- 設計(DFA/DFM)的チェックリスト(図面作成時に使える)
- 用途別の推奨材種と理由(短い判断表)
- 実務Tips(加工現場での“負けない”ための細かな指示)
- よくある誤解と短い解説
- 発注・仕様書に入れるべき項目(テンプレ)
- まとめ(材料選定の“最短回答”)
- 用途別おすすめ(ショートリスト)
- FAQ
材料の基本物性(選定時に最初に抑えるべき点)
(代表的な値は合金・処理で変わるため「代表値/目安」として記載)
- 密度:アルミ ≒ 2.70 g/cm³、ステンレス(SUS3xx) ≒ 7.9 g/cm³
→ 体積当たりの質量はアルミが約1/3。軽量化要求に直結。 - 弾性係数(E):アルミ ≒ 69 GPa、ステンレス ≒ 200 GPa
→ 曲げ剛性やたわみ設計に大きく影響。薄肉設計ではアルミのたわみ対策が必要。 - 熱伝導率:アルミ ≫ ステンレス(アルミは約200 W/m·K 程度、ステンレスは~15–25 W/m·K)
→ 放熱製品(ヒートシンク等)はアルミが有利。 - 熱膨張係数:アルミ ≈ 23×10⁻⁶ /K、ステンレス ≈ 15–17×10⁻⁶ /K
→ 異材接合や高温環境では歪み・クリアランス設計に注意。 - 腐食耐性:SUS316 > SUS304 ≫ 一般アルミ(アルミは陽極化しやすく塩水環境での保護が必要)
→ 海洋・化学環境では316相当、食品・医療ではパッシベーションや表面処理を考慮。
合金別の“実務的”な使い分け(代表例と加工上の特徴)
- SUS304:
汎用の耐食性ステンレス。加工性中〜やや難。切削での被削性低下(被削性向上材はSUS303)。 - SUS303:
硫黄添加の被削性改善材。切削加工性は良いが耐食性は若干落ちる。ねじ・小物部品に便利。 - SUS316 / 316L:
塩化物環境に強い。海洋・化学・医療部品向き。加工は304と同等かやや難。 - アルミ 6061-T6:
汎用構造用アルミ。加工性良好、陽極酸化(アルマイト)で表面処理可能。 - アルミ 5052 / 5083:
成形性・耐食性に優れる(板金用途)。溶接性も良好。 - アルミ 2024 / 7075:
高強度(航空用)。加工は可能だが溶接性は劣る(特に7075)。加工工具と治具の剛性が重要。
切削加工(切削・穴あけ・ねじ立て)での実務上の違いと対策
切削(フライス・旋盤)
- アルミ
- 加工性:非常に切削しやすい(低切削力・高切削速度が可能)。
- 工具:超硬(CBNではなくタングステンカーバイド)、刃先は鋭く・溝は研磨済み(BUE=付着防止)がおすすめ。
- 特性:チップが粘着しやすい → 切りくず排出設計(溝形状、逃げ)・ポリッシュドフルート推奨。
- 冷却:ミストや油性クーラントでBUE抑制。切削温度管理は比較的寛容。
- 切削条件:高回転・高送りを使える(ただし振動対策必須)。
- ステンレス(特にオーステナイト系304/316)
- 加工性:工具摩耗が早い & 加工硬化(ワーク硬化)しやすい。切削速度は低めに設定。
- 工具:被膜処理(TiAlN等)した超硬やコーティング工具、刃形は丸め(大R)で刃先強度を確保。
- 特性:切りくずが連続して長くなる傾向 → チップブレーカー、断続切削の設計が有効。
- 冷却:高圧冷却や切削油で熱を逃がし、工具寿命と仕上げを確保。
- 切削条件:低速・高送りでせん断を避ける(粗削りは大切)。
穴あけ(ドリル)
- ステンレス:
コバルトドリルや高性能コーティングドリル。ペッキング(段取り戻し)で切りくず排出。 - アルミ:
鋭角の刃形、ポリッシュドリルでBUE防止。スルークーラントで良好。
ねじ加工(タップ・ねじ切り)
- アルミ:
塑性加工型タップ(成形タップ)を使える場合あり(母材の延性を活かす)。 - ステンレス:
切削タップで潤滑を十分に。ねじ立て深さを控えめにしたり、ねじ山形状を最適化する。
成形(曲げ・プレス・板金)と加工欠点
- アルミ:
塑性が良く薄板の曲げ・深絞りが容易。だが「ばね性(springback)」が大きいため金型補正と最終寸法管理が必要。 - ステンレス:
板厚が同じなら成形はやや力が要る。加工ひずみで歪みが残りやすいが、成形後のばね戻りはアルミより小さい場合もある。 - 冷間成形後の応力除去:
ステンレスはアニーリング(焼なまし)で応力低減できる。アルミは熱処理で強度・硬さが変わるため取扱い注意(特に熱処理性合金)。
接合(溶接/接着/リベット)の実務ポイント
- 溶接
- ステンレス:アーク溶接が一般的。溶接熱での「酸化(熱間変色)」はパッシベーションや酸洗いで処理。316L等は低炭素種で溶接割れに強い。
- アルミ:アルゴンTIG/MIGが基本。母材の酸化膜(表面アルミナ)を除去して溶接する必要あり。6061は溶接で母材強度が落ちる(ヒートアフェクト)。2024/7075は溶接性が悪い。
- 接着/機械結合:異材接合(Al–SUS)は電食(ガルバニック腐食)に注意。絶縁材料やシーラントで電気的接触を断つ対策を必須に。
表面処理と仕上げ(設計・工程に与える影響)
- アルミ
- アルマイト(陽極酸化):耐食性・耐摩耗性・外観向上。仕上げの寸法変化(皮膜厚)を考慮。
- 塗装:下地処理(脱脂・プライマー)が重要。
- ステンレス
- パッシベーション(硝酸等で表面処理):溶接部の酸化除去に必須。
- 電解研磨(エレクトロポリッシュ):摩耗・腐食耐性と衛生面を高める(医療・食品機器)。
- 表面粗さ(Ra)設計:機械加工で得られるRa帯は工具・切削条件で変動。鏡面要求なら研磨・研削の追加工程を見込む。
寸法公差・精度・仕上がり(実務目安)
- 一般CNCフライス/旋盤の標準公差:±0.05 mm 程度が多い(部品形状・素材・厚みで±0.02〜±0.1 mm の振れ)。高精度(±0.005〜±0.01 mm)は研削・研磨が必要。
- アルミは切削熱で押されやすく振動対策が重要。ステンレスは加工硬化や工具摩耗で寸法変動が出やすい。
- 表面粗さ(例):機械加工で Ra ≒ 0.8–3.2 μm が一般的。鏡面(Ra < 0.2 μm)は追加研磨・バフ仕上げや電解研磨を推奨。
製造コストに直結する要因(発注時に押さえる)
- 原材料単価(kg)だけでは比較できない:
体積当たりの単価 × 加工時間 × 工具摩耗 × 二次工程で総コストが決まる。 - ステンレス:
工具摩耗・切削速度低下→サイクル長・工具コストが増える。表面仕上げやパッシベーション等の追加工程が発生しやすい。 - アルミ:
加工能率が高くサイクル短縮しやすいが、軽量化設計で治具や響き対策が必要になる場合がある(薄肉振動の対策コスト)。
設計(DFA/DFM)的チェックリスト(図面作成時に使える)
- 材料候補を決める優先順位(重要度)を明示:
①耐食性 ②強度 ③重量 ④放熱 ⑤表面仕上げ ⑥コスト - 最小肉厚:
板金と切削で要件が変わる。切削部は最小1.0–1.5mm(工具把握含む)を目安に設計(ただし治具と工程で更に薄く可能)。 - コーナーRは工具R以上(加工工具のRに合わせてRを指定)→角Rを小さくすると加工コスト上昇。
- ねじ深さとタップ径:
材質別に適正比(全ねじ深さ、雌ねじの厚さ)を指定。ステンレスはタップ潤滑と抜き取りを想定。 - 異材接触:
電食対策(絶縁・シール・表面処理)を図面注記で明記。
用途別の推奨材種と理由(短い判断表)
- 食品・厨房機器:
SUS304(耐食性・洗浄性)/SUS316(食品+塩分や海水近傍) - 医療機器(体外):
SUS316L(低C、溶接後の腐食抵抗) - 放熱部品・軽量構造:
アルミ 6061(放熱+機械加工性)/アルミ 2024/7075(高強度、ただし表面処理と溶接注意) - 海洋・化学装置:
SUS316 / 特殊合金(耐食環境)/アルミは適切なコーティングが必要 - 航空・高強度部品:
アルミ 2024, 7075(鋭意検討)/ステンレスより強度当たりの比重は有利だが疲労設計必須
実務Tips(加工現場での“負けない”ための細かな指示)
- ステンレスのドリルは高送りで早めに戻す(ペッキング)、穴底の焼き付き・ツブレ防止に有効。
- アルミの切削では切りくずの詰まり(巻き付き)を防ぐためフルートの研磨・チップブレーカー最適化が重要。
- 異材締結(SUSとAl)では絶縁ワッシャー・シール材・塗膜処理を標準化。
- 高精度部品は加工順序(粗取り→応力除去→仕上げ)を必ず工程に入れる。ステンレスは中間焼なまし、アルミは必要に応じて機械的な応力除去。
よくある誤解と短い解説
- 「アルミは常に安い」→誤り:部品形状・追加処理(アルマイト、溶接対応、薄肉固定具)によってコストは変わる。
- 「ステンレスは強いからなんでも良い」→誤り:重く、加工の手間・工具コストが高く、熱処理・溶接後の処理が必要な場合が多い。
- 「高強度アルミはステンレスの代替になる」→条件付き:強度/疲労/耐食性/溶接性の各観点で検討が必要。
発注・仕様書に入れるべき項目(テンプレ)
使用用途・環境(例:屋外、海水霧、食品接触、耐熱温度)
必要機械的特性(引張強さ、耐力、疲労寿命)
最小肉厚、表面粗さ(Ra)、外観要件(鏡面/梨地/アルマイト色)
寸法公差(主要寸法と形状公差)
表面処理(例:アルマイト硬質20 μm / SUSパッシベーション)
接合方法(溶接・ボルト・接着)と異材接合の有無
数量とロット生産頻度(量産か試作かで工程選定が変わる)
まとめ(材料選定の“最短回答”)
- 加工性で選ぶならアルミ(加工時間・工具摩耗の面で有利)。軽量化・放熱設計とも相性がいい。
- 耐食性・高温・衛生性・長期耐久で選ぶならステンレス(SUS系)。ただし加工コストは高め。
- 最終判断は「使用環境+要求強度+表面仕上げ+見積(総コスト)」の4点セットで行う。合金・熱処理・後処理で評価が大きく変わるため、図面(形状)に合わせた工程設計が鍵。
用途別おすすめ(ショートリスト)
- 食品機器:SUS304 / SUS316L
- 医療器具(洗浄高頻度):SUS316L + 電解研磨
- 放熱部品・ケース:Al 6061-T6 + ハードアルマイト
- 高強度構造(航空):Al 2024 / 7075(処理指定)
- 海洋環境:SUS316 / 316Lまたは特殊合金(アルミは防食処理必須)
FAQ
Q. 「ステンレスとアルミ、加工時間はどれくらい差が出ますか?」
A. 形状・切削体積に依存しますが、同形状・同精度で比較するとアルミの方が切削時間が短く、工具寿命も長いことが多いです(総コストはケース毎に異なります)。
Q. 「SUS303はいつ選ぶべき?」
A. ねじや小物の大量切削で被削性優先ならSUS303。ただし耐食性と溶接性はSUS304より劣るため用途確認を。
Q. 「アルミは溶接で強度落ちるの?」
A. 合金によって異なる。6061などは溶接でヒートアフェクトにより局所的に強度低下するため、設計や処理(熱処理)を計画する必要あり。

