ゴム成形製品は、自動車部品や家電製品、医療機器、OA機器など幅広い分野で使用されており、その精度や耐久性を支えるのが「ゴム金型」です。
ゴム金型の設計は、ゴムの特殊な物性(粘弾性・収縮・硬化挙動など)を深く理解した上で行う必要があり、樹脂や金属とは異なる設計ノウハウが求められます。
今日は、ゴム金型の設計初心者の方に向けて、金型構造の基礎から、成形方法ごとの設計要点、トラブル回避策、実践設計フローまでを、図解付きで徹底的に解説します。
1. ゴム金型とは?特徴と役割
ゴム金型とは、未加硫状態のゴムを所定の形状に成形・加硫(硫黄や加熱により硬化)するための金型で、加熱しながらゴムに圧力を加える構造を持ちます。
金型の役割
- 製品の形状を決定する
- ゴムを均一に流し、硬化させる
- 製品精度と品質を担保する
- 成形サイクルや生産効率に影響する
ゴムは樹脂に比べて流動性が低く、成形中に発泡や収縮が起こるため、金型の構造や設計精度が製品の歩留まりや安定性に直結します。
ゴム成形には主に3つの方式があり、それぞれ金型の構造も異なります。
成形方式 | 特徴 | 金型構造の要点 |
---|---|---|
コンプレッション成形 | 最も古典的。型にゴムを置き、圧縮して加硫 | 単純構造。コスト安だが自動化しにくい |
トランスファー成形 | 注入室から材料を流し込む | ゲート・ランナー設計が重要。中量生産向き |
インジェクション成形 | 射出機からゴムを射出 | 高速・自動化に対応。精密成形に最適 |

3. ゴム金型の基本構造を図解で解説
金型構造は複雑に見えますが、以下の要素を押さえることで全体像がつかめます。
【主な構成要素】

- キャビティ(Cavity)
製品の凹み形状。ゴムが充填される部分。 - コア(Core)
突起状で、中空部分や内側の形状を作る。 - ゲート(Gate)/ランナー
ゴム材料の流入口(インジェクション・トランスファーの場合)。 - ベント(排気溝)
空気を逃がす細い溝。エア巻き込み防止に不可欠。 - パーティングライン
上下金型が接する面。バリの発生源になりやすい。 - エジェクター構造
製品取り出し時に使用。ピンやプレートで押し出す。
4. 設計時に注意すべき6つのポイント
1. ベント構造の配置
空気抜きが不十分だと、ショート・気泡・欠けの原因に。流動の最後部にベントを設けるのが基本です。
2. ゴムの収縮を見越した形状補正
ゴムは硬化後に約1~4%収縮します。製品形状に応じて金型側で予測補正が必要です。
3. 製品取り出し性の確保
テーパ角(1~3°程度)を設けて、金型からスムーズに離型できるようにします。
4. 加熱効率と温度管理
ヒーターの配置や熱伝導材料の選定により、温度ムラのない加硫環境をつくることが重要です。
5. バリ発生を抑えるパーティングラインの工夫
合わせ面の精度やラップ構造(凹凸合わせ)により、バリを最小限に抑えます。
6. 離型性向上の処理
表面加工(クロムメッキやショットブラスト)や離型剤処理を施して、金型寿命と作業性を向上させます。
5. 成形不良を防ぐ!トラブル回避の工夫
不良例 | 原因 | 金型での対策 |
---|---|---|
ショート | 空気逃げ不良 | ベント拡大・排気穴追加 |
フラッシュ(バリ) | パーティング面の隙間 | 精密仕上げ・金型合わせ精度の向上 |
気泡・ブツ | 湿気や脱気不足 | 材料の事前脱気・ベント設計改善 |
焼け・焦げ | 局所過熱 | 温度センサによる分布制御 |
6. ゴム金型設計の具体的な流れ
- 製品図面・使用ゴムの確認
材質、硬度、収縮率、成形方式の選定 - 成形方式に応じた金型構想立案
キャビティ数、型締め力、加熱構造などを検討 - 3Dモデリング・シミュレーション
CAEを活用して流動性や硬化予測を行う - 詳細設計(2D図面)と製作図出図
部品図、組立図、加工指示書の作成 - 試作型製作・トライ成形
初期トライで問題点を抽出 - 修正・量産型完成
歩留まりと品質の最適化後、本格生産へ
7. 設計支援ツールとデジタル化の活用
- ゴム流動解析ソフト(Moldex3D, SIGMASOFTなど)
- CAD/CAM(SolidWorks, Creo, Fusion 360)
- デジタルツイン・シミュレーション技術
- トレーサビリティを高めるIoTセンサー管理
8. まとめ:成功するゴム金型設計の鍵
ゴム金型設計は、単なる図面作成ではなく、製品の性能・コスト・信頼性を支える「ものづくりの基盤」です。
特に初めて設計に取り組む方は、構造の基本と設計の理屈を押さえつつ、「成形現場での経験やトライの蓄積」を大切にすることで、より高精度で安定した金型設計が可能になります。