マシニングセンタにおける径補正と工具長補正をさらに詳しく解説します。これらの知識は、正確な加工を実現し、不良品の発生を抑えるために必らず実施しましょう!
1. 径補正 (Cutter Radius Compensation)
1.1 概要
- 径補正は、工具の半径を考慮して、工具の中心軌跡を補正する機能です。
- 加工プログラムは部品の仕上がり寸法を基準に作成されますが、工具には半径があるため、そのまま加工すると寸法が半径分大きくなってしまいます。
- 径補正を適用することで、工具の中心軌跡を自動的に補正し、狙い通りの寸法を実現します。
1.2 径補正のモード
- G41:左側補正 (工具が進行方向の左側にある)
- G42:右側補正 (工具が進行方向の右側にある)
- G40:補正解除
1.3 径補正の設定と管理
- D番号 (例: D01, D02) を用いて工具半径を指定します。
このD番号は、ツールオフセットテーブルに登録された半径データを呼び出します。
例:オフセットテーブルの設定
D番号 | 工具番号 | 半径 (mm) |
---|---|---|
D01 | T1 | 5.0 |
D02 | T2 | 10.0 |
- 加工プログラム内で
D01
を指定すると、半径 5.0 mm の補正が適用されます。
1.4 径補正の動作原理
- G41:工具が進行方向に対して左側にオフセットされます。
- 主に外周削りや内ポケットの輪郭加工で使用。
- 工具径が変わった場合でも、オフセットテーブル内の半径値を変更するだけでプログラム修正不要です。
- G42:工具が進行方向に対して右側にオフセットされます。
- 主に内側の輪郭加工や穴の外周加工で使用。
1.5 プログラム例
N10 G90 G17 G40 G21 ; 絶対座標系、XY平面、径補正解除、mm単位
N20 T1 M06 ; ツール1を選択
N30 G43 H01 Z50.0 ; 工具長補正
N40 G00 X0 Y0 ; 原点に移動
N50 G41 D01 X50 Y50 ; 径補正左 (D01の半径5.0を使用)
N60 G01 Z-10 F100 ; Z方向に加工
N70 G01 X100 Y50 ; X方向に直線加工
N80 G03 X100 Y100 R50 ; 円弧加工 (左補正を考慮)
N90 G40 ; 径補正解除
N100 G00 Z100 ; 工具退避
N110 M30 ; プログラム終了
ポイント:
- 径補正を開始する際には、直線部または円弧の接点から開始します。急な方向転換部分から補正を開始すると、補正エラーが発生することがあります。
1.6 径補正の注意点
- G41/G42 を使う際、G01 (直線補間) または G02/G03 (円弧補間) と組み合わせて使用します。
- 補正開始点と終了点では、必ず十分な逃げしろを設定します。これが不十分だと補正エラーが発生します。
2. 工具長補正 (Tool Length Compensation)
2.1 概要
- 工具長補正は、工具の長さの違いを補正する機能です。
- 同じ加工プログラムを使っていても、工具の長さが異なると、加工面の高さが変わってしまいます。
- 工具長補正を使うことで、Z方向の加工面の高さを一定に保ちながら作業ができます。
2.2 工具長補正のモード
- G43:工具長補正 (正の方向)
- G44:逆工具長補正 (ほとんど使用されない)
- H コード:補正値を呼び出す (H01, H02など)
2.3 工具長の設定と管理
- H番号 (例: H01, H02) を用いて工具長を指定します。
H番号は、ツールオフセットテーブルに登録された長さデータを呼び出します。
例:オフセットテーブルの設定
H番号 | 工具番号 | 長さ (mm) |
---|---|---|
H01 | T1 | 150.0 |
H02 | T2 | 200.0 |
- 加工プログラム内で
H01
を指定すると、長さ 150.0 mm の補正が適用されます。
2.4 工具長補正の動作原理
- 工具長補正は、ワーク座標系のZ軸基準点を基準にして、工具の先端を加工面の所定の高さに合わせるために行います。
- 工具交換時に長さが異なっても、オフセットテーブルの値を修正するだけで、プログラムを変更せずに加工が可能です。
2.5 プログラム例
N10 G90 G17 G21 ; 絶対座標系、XY平面、mm単位
N20 T1 M06 ; ツール1を選択
N30 G43 H01 Z50.0 ; 工具長補正 (H01の150.0を使用)
N40 G00 X0 Y0 ; 原点に移動
N50 G01 Z-20 F100 ; 加工面までZ軸を下降
N60 G01 X100 Y100 ; 切削加工
N70 G00 Z100 ; 工具退避
N80 M30 ; プログラム終了
2.6 工具長補正の注意点
- 工具長補正は、G43 + H番号 を使って必ず工具交換後に設定します。
- 工具交換後にG43を設定しないと、誤った高さで加工される可能性があります。
- H番号を間違えると、加工面を深く削りすぎるなどの重大なミスにつながるため、オフセット表とプログラムの整合性を必ず確認しましょう。
2.7 径補正との組み合わせ
- 径補正と工具長補正は、同時に使用可能です。
- 例えば、G43 + H01 で工具長補正を行い、G41 + D01 で径補正を行うことで、XY平面の輪郭精度とZ方向の高さ精度の両方を確保します。
まとめ
マシニングセンタにおいて、径補正と工具長補正は、寸法精度と加工品質を確保するための重要な機能です。径補正を用いることで、工具の半径分の誤差を自動的に補正し、狙い通りの寸法が実現できます。また、工具長補正を用いることで、工具の長さが異なってもZ軸方向の加工面の高さを統一できます。
これらの補正機能を正しく理解し、適切に設定することが、高精度な加工と効率的な生産を実現する鍵であることは言うまでもありません。今後、より複雑な三次元形状の加工が求められる中で、これらの機能を駆使することで、さらに高度な加工技術を習得していきましょう。