軽くて強い!高張力鋼板(ハイテン材)の基礎知識

金属材料の基礎知識

高張力鋼板(ハイテン材)とは?

高張力鋼板(ハイテン:High Tensile Strength Steel)とは、引張強さが一般的な鋼板よりも高い材料を指します。

通常の冷間圧延鋼板(SPCC)や熱間圧延鋼板(SPHC)と比べて、同じ荷重に耐えながらも材料を薄く・軽く設計することが可能です。そのため、軽量化・高強度化・環境負荷低減が求められる分野で広く利用されています。

引張強さと等級の目安(MPa)

ハイテン材は、引張強さ(MPa=メガパスカル)によってグレード分類されます。以下は主な等級の一覧です。

引張強さの目安一般的な呼称主な用途
440MPa級軟質ハイテン(軟質高張力)パネル部材、外板
590MPa級中強度ハイテンフロア補強、クロスメンバー
780MPa級高強度ハイテンピラー、サイドメンバー
980MPa級超高強度ハイテンインパクトビーム、バンパー
1180MPa~ウルトラハイテン(UHSS)衝突安全構造部品、車体骨格

ハイテン材の製造方法と主な材質

高張力鋼板は、以下のような製造技術や合金設計によって性能を確保しています。

製造プロセス

  • 合金元素の添加(Mn, Si, Cr, Mo, Nb, Tiなど)
  • 熱間圧延・冷間圧延処理
  • 焼鈍処理(BA、CAなど)
  • 相変態制御(フェライト+マルテンサイト系など)

主な鋼種(JIS規格・代表例)

鋼種記号引張強さの目安備考
SAPH440≧440MPa自動車用熱間圧延鋼板
SPFH590≧590MPa冷間成形用熱間圧延鋼板
JSC780≧780MPa自動車構造材向け
JSC980≧980MPa衝突吸収部材
JSC1180≧1180MPa超高強度鋼

なぜ“軽くて強い”が重要なのか?

軽量化による燃費改善とCO₂削減

自動車の車体重量を10%削減すると、燃費が約6〜8%向上すると言われています。
ハイテン材は軽量化と強度確保を両立できることから、EVやHVのような低燃費・環境対応車に最適です。

衝突安全性能の向上

高強度に加え、靭性(割れにくさ)にも優れる材質設計により、衝撃エネルギーの吸収性能が高い構造設計が可能となります。

ハイテン材の代表的な用途

業界用途具体例
自動車骨格・外板・補強材Aピラー、Bピラー、サイドメンバー、バンパービーム
建設鉄骨・構造材耐震補強材、建築梁・柱、橋梁部材
家電裏板・補強構造冷蔵庫の外枠、洗濯機のベース
産業機械各種構造フレームフォークリフト、農機具、ラックフレーム

加工における注意点と対策

ハイテン材は、一般鋼に比べて強度が高く、その分加工が難しくなる傾向があります。

プレス加工

  • スプリングバック(戻り)が大きいため、金型補正設計が必須。
  • 成形限界が低いため、潤滑・成形油の選定が重要

溶接加工

  • 高張力材は、硬化性が高く割れが発生しやすい
  • 予熱、パルスMIG溶接、レーザー溶接など、適切な方法と条件管理が必要。

レーザー・ガス切断

  • 高強度による刃物・ノズルの摩耗が激しく、定期的な保守管理が求められる。

ハイテン材の今後と最先端動向

技術革新により、1500MPaを超える超高強度鋼板(Advanced High Strength Steel:AHSS)の利用が進んでいます。
これにより

  • EV車のさらなる軽量化
  • バッテリー保護用構造材への応用
  • 新たなクラッシュエネルギー吸収設計

が可能となり、自動車設計の最適化が一層進むと期待されています。

また、日本製鉄、JFE、神戸製鋼など国内大手鉄鋼メーカーによるマルテンサイト系・複相鋼(DP鋼)・TRIP鋼・TBF鋼の開発が活発に行われています。

まとめ:ハイテン材は「高性能・環境配慮・設計自由度」の三拍子

高張力鋼板は、従来の材料では実現できなかった軽さ・強さ・省エネ性を同時に提供できる、次世代型の素材です。
ただし、加工性や溶接性には注意が必要であり、材料選定から加工方法まで一貫した知識が求められます。

製品設計段階から「ハイテン材」を活かした構造設計を行うことで、コスト削減・性能向上・社会的価値の創出を実現できるでしょう。

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